ツツガムシ(読み)つつがむし(英語表記)chigger mite

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ツツガムシ」の意味・わかりやすい解説

ツツガムシ
つつがむし / 恙虫
chigger mite

節足動物門クモ形綱ダニ目ツツガムシ科Trombiculidaeと、その近縁のレーウェンフェク科Leewenhoekiidaeの総称。全世界に広く分布し約2000種を含み、日本産は100種余りである。成虫体長は1ミリメートル前後。体の中央はくびれて8字形を示し、体表に多数の毛が生えている。生活史は、卵→幼虫→若虫→成虫よりなるが、幼虫期にだけ各種の動物、とくにノネズミに寄生し、宿主のリンパ液を吸い、満腹すると宿主を離れて地中に潜り若虫に脱皮する。鳥やトカゲヘビなどに寄生するものもある。若虫と成虫は、地中で微小昆虫の卵などを吸液している。

 古くからつつが虫病の媒介者として知られ、普通、ノネズミ→ツツガムシの間で病原体であるリケッチアの一種であるオリエンチア・ツツガムシは循環しているが、たまたま有毒幼虫がヒトに寄生したとき(山菜狩りなどで野山に入った場合など)、つつが虫病を引き起こす。このほかに、病気は媒介しないが盛んにヒトを刺し、激しいかゆみをおこして皮膚炎の原因となるものにナンヨウツツガムシEutrombicula wichmanniがおり、伊豆七島、吐噶喇(とから)列島琉球(りゅうきゅう)諸島黒島(くろしま)(鹿児島県)に分布している。一般に幼虫は秋・冬・春に多く、夏にみられる種は、アカツツガムシLeptotrombidium akamushiや、おもに鳥に寄生するトリタマツツガムシ属Neoschoengastiaに含まれるものなどがある。

[鈴木 博]

つつが虫病

ほかの多くの伝染病と異なり、この疾病はヒトからヒト、動物からヒトへの直接、間接の伝播(でんぱ)がみられず、成虫からの経卵感染により有毒化したある種のツツガムシ幼虫に、病原体(オリエンチア)を接種されるときにおこる発疹(ほっしん)性熱疾患である。日本をはじめ東南アジア、南西太平洋、ロシア連邦沿海州、パキスタンなどに発生する。感染症予防・医療法(感染症法)では4類感染症に分類されている。病原体をもったツツガムシに刺されると、約1週間後に、刺された部位の皮膚が潰瘍(かいよう)(刺口(さしくち)とよばれる)になり、高熱を併発して全身に赤い発疹ができる。

 いずれもレプトトロンビディウム属Leptotrombidiumによって媒介される。日本では以下の3種が媒介者として知られる。古典的つつが虫病媒介種であるアカツツガムシ(秋田、山形、新潟、福島の各県に分布)、七島型つつが虫病媒介種であるタテツツガムシL. scutellare(伊豆七島、千葉県、富士山麓(さんろく)、九州各地)、非アカツツガムシ病媒介種であるフトゲツツガムシL. pallidum(神奈川、静岡、大分の各県のほか、全国的に散発)。日本各地でつつが虫病患者の発生が2000年(平成12)以降、年間300~800例報告され、数例の死亡例もみられている。比較的軽症の場合、風邪(かぜ)と診断されることがあり、的確な診断と適切な治療処置が行われないと危険な場合もあるが、抗生物質の投与により全治する。現在までのところ有効な予防ワクチンが開発されていないので、有毒なツツガムシの生息地に殺虫剤を散布し、一時的に幼虫を駆除したり、衣服に忌避剤や殺虫剤を塗布する方法が行われている。

[鈴木 博]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ツツガムシ」の意味・わかりやすい解説

ツツガムシ
Trombiculidae; chigger mite

クモ綱ダニ目ツツガムシ科に属する種類の総称。成体の体長は約 1mm。体は中央ないしやや前方でくびれて8字形を示し,短毛で覆われる。卵→幼虫→若虫→成虫と成長する。幼虫はネズミや鳥などにとりついてリンパ液を吸い,その後宿主から離れて地中にもぐって脱皮する。若虫と成虫は土中で昆虫類の卵などを食べて生活する。世界で約 1600種が知られているが,幼虫のみが記載されて成虫が知られていない種が多い。恙虫病は,病原体をもった幼虫が人間に寄生するために起こる。日本産約 90種のうち,恙虫病を媒介するものとして確認されたものに,アカツツガムシ Leptotrombidium akamushi,フトゲツツガムシ L. pallidum,タテツツガムシ L. scutellareなどがある。アカツツガムシはその名のとおり橙赤色で,新潟県,山形県,秋田県,福島県下の河川沿岸に生息することが知られ,幼虫は6~10月に出現する。フトゲツツガムシは神奈川県,静岡県,大分県などに,タテツツガムシは千葉県,伊豆諸島,静岡県,宮崎県,鹿児島県などにみられる。また,ノネズミには多くのツツガムシが寄生しているが,最も一般的な種はフジツツガムシ L. fujiで,全国的に分布している。盛んに人間を刺し,皮膚炎の原因となるものにナンヨウツツガムシ Eutrombicula wichmanniがある。伊豆諸島から南方の島々に分布し,通常はイヌ,ネコ,鳥などに寄生している。 (→ダニ類 )

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改訂新版 世界大百科事典 「ツツガムシ」の意味・わかりやすい解説

ツツガムシ (恙虫)
chigger

前気門亜目ツツガムシ科Trombiculidaeに属するダニの総称。幼ダニの時期だけが脊椎動物に寄生し,ある種では激しく人を刺して皮膚炎を起こしたり,ツツガムシ病を媒介する。未吸着の幼ダニは体長が0.2mmほどで3対の脚を有する。親ダニと若ダニは体長が約1mmで胴が8字形にくびれ,4対の脚を有し,体表にビロード状の短毛を密生する。卵は0.1mmほどの球形で土中に産み落とされる。孵化(ふか)した幼ダニは1回だけ寄生してリンパ液を吸い,若ダニと親ダニは土中で昆虫などの卵を吸って自由生活する。ツツガムシ病は自然界では野ネズミ→ツツガムシ→野ネズミと宿主を変え流行し,人はツツガムシ病リケッチアを保有するツツガムシの幼ダニに刺されて感染する。日本には80種以上のツツガムシが知られており,東北地方では主としてアカツツガムシLeptotrombidium akamushiによって夏季に,全国各地では四季にあまり関係なく,フトゲツツガムシL.pallidumなどで伝播(でんぱ)される。
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百科事典マイペディア 「ツツガムシ」の意味・わかりやすい解説

ツツガムシ(恙虫)【ツツガムシ】

ケダニ類ツツガムシ科に属するダニの総称。幼虫(脚は3対)だけがノネズミなどの体表に寄生し,若虫や成虫(脚は4対)は土中で自活する。世界で2000種以上,日本で約80種以上発見されているが,ツツガムシ病を媒介するものはその一部に限られる。日本でツツガムシ病を媒介するのは,信濃川,阿賀野川,最上川,雄物川流域で夏に幼虫が発生するアカツツガムシ(アカムシ),四国の海岸地方の一部で夏に幼虫が発生するトサツツガムシ,山形県以南の各地に散在し,特に伊豆七島に多く,主として秋に幼虫が発生するタテツツガムシである。
→関連項目ケダニダニ

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世界大百科事典(旧版)内のツツガムシの言及

【ダニ(蜱∥蟎∥壁蝨)】より

…ヤドリダニ類では口器(鋏角)を用い,ミズダニでは第3脚を用い,雄が雌の生殖口に精包を入れるが,ササラダニでは雄が精包を置きっぱなしにし,雌があとでこれを拾う。卵からかえった幼虫は若虫を経て成虫になるのがふつうであるが,若虫の段階がないもの(ホコリダニ),若虫が1期しかないもの(ツツガムシ,マダニ),第1若虫と第2若虫があるもの(ハダニ,イエダニ),第1・第2・第3若虫があるもの(ササラダニ,コナダニ)がある。幼虫時代は歩脚が3対しかなく,若虫になって初めて成虫と同じように4対の脚をもつようになる。…

【恙虫病】より

…ツツガムシ(恙虫)の幼虫が媒介するリケッチアによって起こる急性発疹性の感染症。俗に〈恙無し〉はツツガムシに感染していないことから転じて,〈無病〉の状態をいうようになったとされている。…

※「ツツガムシ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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