ニューヨークのセントラル・パークの東沿いを走る、五番街のいわゆる「ミュージアム・マイル」の北端に位置する美術館。1937年ソロモン・ロバート・グッゲンハイムSolomon Robert Guggenheim(1861―1949)が自分のコレクションを収めるために非対象絵画non-objective painting美術館として開設したが、その後43年にグッゲンハイム美術館の名称で新たに設計が開始され、59年に完成をみた建築で、フランク・ロイド・ライト(1869―1959)の代表作の一つである。カンディンスキー、ブランクーシのコレクションなど、20世紀の抽象美術を中心とした常設展示のほか、さまざまな企画展示も開かれている。
ライトは、いうまでもなく、1880年代から1950年代末まで、約70年にわたって活動を続けた20世紀の代表的建築家の一人であり、いわゆるプレーリー(草原)住宅とよばれる個人住宅の設計者として建築史にその名をとどめている。とはいえ、公共建築においても多くの重要な仕事を残しており、グッゲンハイム美術館は、その典型的作例の一つに数えられる。この美術館の最大の建築的特徴は、「螺旋(らせん)」構造にあるといえよう。「螺旋」構造そのものは、同じライトによる1925年のG・ストロング・プラネタリウムの計画案にまでさかのぼりうる着想で、展望台と駐車場を主体とする複合施設として構想されたその計画案では、頂上まで続く螺旋状の斜路が駐車スペースにあてられていた。ところが、グッゲンハイム美術館では、この自動車のための斜路が、キャンティレバー(一端が自由端、他方が固定端で構成された梁(はり))によって壁体から張り出された螺旋状に下降する展示空間に変貌し、ドーム状のトップライト(天窓)から採光が行われる手法と相まって、きわめて印象深い鑑賞空間を生み出している。注入されたコンクリートが、継ぎ目なく流れるように螺旋を形成してゆく斬新(ざんしん)なデザインは、従来の構造システムから完全に自由な設計の可能性を大規模かつ具体的に提示したものである。さらに構造的、造形的、空間的な理念を緊密に統合した鉄筋コンクリートの造形という点で、グッゲンハイム美術館は、その後の建築に大きな示唆を与える記念碑的な建物となった。ライトの後期建築のなかでももっとも重要な作例の一つとされるゆえんである。
1969年にソロモンと同じく前衛美術の支援者であった姪(めい)のペギー・グッゲンハイムPeggy Guggenheim(1898―1979)が彼女のコレクションの大半をグッゲンハイム美術館に寄贈したために収蔵品が充実した。
[村田 宏]
グッゲンハイム美術館は、ニューヨーク以外でも事業の展開をはかっていて、1980年にイタリアのベネチアでペギー・グッゲンハイム・コレクション、97年にスペインのビルバオでグッゲンハイム美術館ビルバオ、同年にドイツのベルリンでドイチェ・グッゲンハイムをそれぞれ開館している。また、2001年から08年までラスベガスにおいてグッゲンハイム・エルミタージュ美術館を開いていた。
[編集部]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
ニューヨークにある美術館。マイヤー・グッゲンハイムの子ソロモン・ロバートにより,1937年,自分のコレクションを収めるための非対象絵画美術館Museum of Non-Objective Paintingとして開設され,59年グッゲンハイム美術館の名称で現在のセントラル・パーク脇の五番街に建てられた。開設時よりグッゲンハイム財団によって運営されている。大胆な螺旋構造は,晩年のF.L.ライトの設計による。カンディンスキー,ブランクーシのコレクションなど,20世紀の抽象美術を中心とした常設展示のほか,意欲的な企画展を開いている。ソロモンの姪ペギーPeggy Guggenheim(1898-1979)も彼に似て前衛美術の熱烈な支援者であり,M.デュシャン,H.リードの指導によってダダ,シュルレアリスムに接近し,ヨーロッパでキュビスムとシュルレアリスムの作品を収集,アメリカに紹介する一方,アメリカの前衛美術のパトロンともなった。69年,彼女のコレクションの大半がグッゲンハイム美術館に寄贈され,収蔵品がさらに充実した。97年スペインのビルバオにグッゲンハイム・ビルバオ美術館が開館した。
執筆者:桑原 住雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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…38年アリゾナの砂漠に建設した彼の創作の根拠地タリアセン・ウェストは,アメリカの大地に触発されて生まれた〈有機的建築〉の最高傑作と呼ぶにふさわしい。らせん構造,円形平面のグッゲンハイム美術館(1956‐59)は,造形と構造についての深い考察とながい追求の結果実現した作品で,夢に終わった高さ1マイル,13万人収容の超高層ビル,マイル・ハイ・イリノイ案(1956)とともに,ライトの作品の多様さ,構想力の大胆さ・自由さを遺憾なく示している。《自伝》(1932),《ナチュラル・ハウス》(1954),《遺言》(1957)などの著作を残す。…
※「グッゲンハイム美術館」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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