グッド・プラクティス

大学事典 「グッド・プラクティス」の解説

グッド・プラクティス

[GP事業(日本)の概要]

GP(Good Practice)とは,各大学(短期大学・高等専門学校を含む,以下同)の優れた教育改革等の取組みを公募により選定・支援し,その取組みの内容や成果を広く周知させて,教育改革のさらなる推進を図る文部科学省の事業である。本来,GPという語は「優れた取組み(教育改革)」を意味する語だが,日本の高等教育界では文部科学省の事業を指すことが通例となっている。GPは,①国公私立大学を通じた競争的環境,②第三者による公正な審査,③積極的な社会への情報提供の三つをキーワードとして展開した。2003年(平成15)から2010年までの8年間で計282大学が採択され,大学全体の4割近くは採択されたこととなる。このGPは,各大学の教育改革に焦点を当てたものだが,それに先駆けて2002年から「21世紀COE(文部科学省)(Center of Excellence)」という大学の研究面に焦点を当てた競争的資金配分が行われていた。そのため,研究と教育のバランスをとる施策だったとする見方もある。これらはいずれも2000年代に入って意識されたものではなく,1998年の大学審議会答申(「21世紀の大学像と今後の改革方策について」)に,限られた予算を「評価」に基づいて「重点的」に配分する必要があるという指摘があることから,90年代から推し進められてきた政策が具現化されたものともいわれている。

 文部科学省は,①特色ある大学教育支援プログラム(文部科学省)(特色GP(文部科学省)),②現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP(文部科学省)),③質の高い大学教育推進支援プログラム(教育GP(文部科学省)),④大学教育・学生支援推進事業[テーマA]大学教育推進プログラムの四つを「各種GP」としている。そのうち特色GP(支援期間3年)現代GP(支援期間2~4年)は2003年,2004年と連続で開始したが,それぞれ評価の重点が異なっていた。前者は当該機関がそれまでに行ってきた教育の実績に重点を置き評価するもので,後者は各大学が将来に向けて構築していく教育プログラムに焦点を当てて評価するものだった。両者を発展的に統合する形で,2008年に開始されたのが教育GP(支援期間3年)である。また2009年からは大学教育・学生支援推進事業(支援期間3年)が開始された。

 全体の数では,2003年から実施された特色GP以後,全国の国公私立の各大学から960の取組みが採択され(申請件数は6389件,採択率15%),総予算額は477億円に上った。文部科学省の委託研究(「競争的な教育資金の効果の検証及び今後の在り方に関する調査研究」)によれば,「GPは高等教育システム全体にとって良い影響があったか」について,肯定的に回答した学長は97%,GP取組担当者は79%,GP審査委員は68%と差はあるものの,成果としては全体的に高く評価された。それにもかかわらず,GP事業を含む文部科学省の各種支援事業は,2010年11月,当時の民主党政権下の行政刷新会議事業仕分けの対象となり,GPは「バラ撒き型事業は原則として廃止」「大学の本来業務であり経常収支の中で大学自身が取り組むべきもの」「大学の本来の業務をこのように短期的政策で対応することは原則として廃止すべき。教育は長期的視点で考えるべき」といった厳しい評価を受け,この当時実施されていた大学教育・学生支援推進事業が廃止されることとなり,GP事業は終焉した。

[GP事業の総括課題

文部科学省は,個別のGP事業については評価が行われてきたものの,全GP事業を俯瞰した評価は行われていないとして,2013年4月に有識者を集め,「国公私立大学を通じた大学教育改革(文部科学省)の支援に関する調査検討会議」を設置し,総括を行った。同年8月には,補助事業の成果と課題,および今後の大学教育改革のあり方を検討した「意見のまとめ」を出した。そこでは,GP事業の成果・効果について,①日本の高等教育全体に「教育」の重要性を強く認識させたこと,とくに地方の中小私立大学にとってはGP事業の採択は非常に大きな活力となったこと,また,②学内の教職員に「大学改革」「教育改革」という意識が浸透したこと,③学内だけでなく地域関係機関とも連携・信頼が築けたこと,④学生支援などに対する理解・意識の高まりが見られたことなどを挙げ,全体としての成果を高く評価した。

 一方で,特色GPの5年間の総括に見られるように,①申請が1機関1件(全学ないし学部・学科の単位で申請)という機関間の平等を期したものではあったが,「組織としての改革」を重視するために,学部の多い大規模国立大学が有利になり,小規模な私立大学には不利になっていた,②大学の営みは分節化されてはならないにもかかわらず,申請のために学内の取組みが分節化された,③学士課程教育の効果を問うならば最低4年間のサイクルが必要だが,そこまで見据えることのないパッチワークのような改革案で改善を図るという方向性が定着してしまった,④新しい資金を得ることで日常的な活動が攪乱した,事業終了後の継続性が担保されなかったなど,多くの懸念も提示された。こうした懸念はどのGP事業にも当てはまることである。これらを受け,前述の検討会議からは,今後の課題(進化した新しいGPの構築)として,5年程度の中期的な補助期間を設定すること,厳格な中間評価を行い評価の高い事業に重点配分すること,そして最大の目的である積極的な普及活動を行うためのネットワークを形成することなどが挙げられた。
著者: 小島佐恵子

参考文献: 天野郁夫「競争的資金と大学改革」,「COE・GP型競争的資金」『IDE 現代の高等教育』479号,IDE大学協会,2006.

参考文献: 絹川正吉・小笠原正明編『特色GPのすべて―大学教育改革の起動』JUAA選書14,財団法人大学基準協会,2011.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

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