改訂新版 世界大百科事典 「グリニャール反応」の意味・わかりやすい解説
グリニャール反応 (グリニャールはんのう)
Grignard reaction
RMgX(Rはアルキル基,フェニル基などの有機原子団,XはCl,Br,I)で表される有機マグネシウム化合物が関与する反応の総称。1901年フランスのF.A.V.グリニャールにより開発された有機金属化合物が関与する反応である。ハロゲン化アルキルに乾燥エーテル溶媒中金属マグネシウムを作用させるとグリニャール試薬が高収率で得られる。こうして得られた試薬は,その存在状態に関してはさまざまな議論があり,溶媒によっては溶媒との錯体を形成したり,二量体として存在する。反応性を次に示す。
(1)グリニャール試薬は水に接触するとただちに分解し,炭化水素となる。
RMgX+H2O─→RH+HOMgX
また,空気に触れると分解する。水以外に,カルボン酸,アルコール,アミンなど活性水素を有する化合物との反応では同様に炭化水素を与える。末端アルキンと反応してアセチレンのグリニャール化合物を与える。
R1MgX+R2C≡CH─→R1H+R2C≡CMgX
このようにグリニャール試薬のアルキル基は陰性を帯びて,求核性が強く,アニオノイドとして作用する。
(2)グリニャール反応のうちで,合成上最も重要なものとして,カルボニル化合物との反応でアルコール類を生成する反応がある。
この場合,ケトンからは第三級アルコールが,アルデヒドからは第二級アルコールが生成する。アルコール類の合成法として,工業的にも重要である。
(3)エステル,酸無水物,酸ハロゲン化物のカルボニル基には2molのRMgXが付加して第三級アルコールを与える。酸アミド,ニトリルに対しては,1mol付加の段階で反応が止まる場合が普通であり,さらにこれを加水分解することによってケトンが得られる。
(4)グリニャール試薬は二酸化炭素と反応し,カルボン酸を与える。その他,セレン,ケイ素などを含む種々の金属または有機金属化合物と反応して,新たに別の有機金属化合物をつくることができる。
RMgX+Se─→RSeMgX
RMgX+(CH3)3SiCl─→RSi(CH3)3+MgXCl
このようにグリニャール反応は有機合成上,現在においてもきわめて重要な合成反応の一つとなっている。
→有機金属化合物
執筆者:友田 修司
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報