改訂新版 世界大百科事典 「コノハチョウ」の意味・わかりやすい解説
コノハチョウ (木の葉蝶)
leaf butterfly
Kallima inachus
鱗翅目タテハチョウ科の昆虫。インド以東の東アジアの熱帯に産し,沖縄本島北部が分布の北限である。沖縄では局地的であるが,石垣島,西表島ではまれではない。縦長の特異な翅型で,後翅に尾状突起があるが,アゲハのものとは位置も構造も異なる。大型で開張は6.5cm前後,中央部に向かって幅広となる。表面は黒色,橙色,藍色の地に,前翅の半透明の白紋が各2個ある。裏面は枯葉に似ているがきわめて変異に富み,アサリの貝殻と同様,同じ模様のものは二つとない。前翅先端の突起から後翅の尾状突起まで暗色の線が走る点のみ共通であって,この線が葉の中脈に見えるのでこの名がある。昔から本種の翅を閉じた姿が枯葉に対する擬態とみなされてきたが,コノハチョウは頭を下にして静止するし,小枝に止まることもなく,野外の個体には翅が鳥についばまれた跡のあるものも多いなど,生態上,この見方には疑問がある。生息地は樹林周辺,とくに川の付近で,あまり明るい環境には多くない。成虫は樹液や腐熟果に集まる。年数回発生し,成虫で越冬する。幼虫はスズムシソウ類(キツネノマゴ科)を食草とし,日陰を好む。
執筆者:高倉 忠博
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報