コミュニケーション行動(読み)コミュニケーションこうどう(英語表記)communication behavior

最新 心理学事典の解説

コミュニケーションこうどう
コミュニケーション行動
communication behavior

ある個体(発信個体)が他個体(受信個体)に向けて信号を発信し,受信個体がその信号を解釈し,その信号に即した行動を取った場合に,動物種一般を通じてコミュニケーションが成立したといえる。この行動がコミュニケーション行動である。この信号を介して伝達される情報には,感情・意思・思考・知識などがある。こうした情報は,共通の要求(繁殖・採食・防御など)を満たすとともに,集団で生活する種では集団の凝集性を強める。コミュニケーションの種類は非常に多様であるが,そのいくつかについてはその機能も詳細に調べられている。たとえば,個体間の闘争場面において行動を調整する,繁殖のための求愛,食物の場所の伝達,防御のための対捕食者警報などである。これらの情報を伝える信号媒体としては,音声,ジェスチャー,表情,分泌物質(フェロモン)などがある。なお,信号刺激の産出機構は多くの動物において遺伝的に規定されているものであり,そのため信号の形態は定型的であることが多い。

【動物のコミュニケーション】 音声信号を介したコミュニケーション(音声コミュニケーション)は,ヒトをはじめ,鳥類や哺乳類全般において広く報告されている。たとえば,霊長類においては,捕食者や隣接グループに対する警報音声,求愛の音声,群れのメンバーが互いの所在を伝え合うために発する音声(コンタクトコール)などのさまざまな音声を使い分けることが知られている。とくに,警報音声については,フィールド観察やフィールド実験などにより詳細な分析が施されている。それらの研究により,この警報音声が危険を察知したことによる情動的反応を超えて,捕食者情報を群れ内の他個体に伝える非常に洗練されたコミュニケーションの媒体であることがわかってきた。たとえば,アフリカのサバンナに住むベルベットモンキーは,ヒョウ・ヘビ・ワシという3種の異なった捕食者に対し,それぞれに対応した警報音声を使い分けて発する。さらにその信号を受信した個体が,それぞれの捕食者に対した防御反応を取ることが報告されている。また,それぞれの音声のある程度の意味は遺伝的に規定されているが,発達とともにその意味がさらに洗練されることも知られている。つまり,各種の警報音声は参照的な機能をもっており,参照すべき対象は経験に基づいて学習される。一方で,こうした警報音声の発声に関してはわずか数ヵ月齢からおとな個体と変わらない。すなわち,警報音声の音響的特徴についてはほとんど遺伝的に規定されており,発声学習を必要としないようである。

 また鳥類の音声コミュニケーションは,詳しくは後述するが,大別して地鳴きとさえずりの二つがある。地鳴きは,鳥が特定の状況にあるときに出され(空腹・警戒など),多くの場合,他の個体にすみやかに影響を与えることができる。なお地鳴きに見られる個体差は,個体認知の手段としても重要である。一方,さえずり(鳥の歌)とは一部の小鳥に見られる鳴き方であり,とくに縄張り防衛・求愛にかかわる音声コミュニケーションに用いられる。小鳥のさえずりは,美しい音色,複雑な旋律とリズムをもち,音量に富む。また,地鳴きが遺伝的に規定されており発声学習を伴わないのに対し,小鳥のさえずりは発声学習に基づき,親の歌から学習することが知られている。さらに,その学習には臨界期があり,生後100日程度までに歌の音響特徴は確定する。

 近距離でのコミュニケーションには音声を伴わない視覚的信号によるコミュニケーションも用いられる。たとえば,特徴的な体の部位の顕示や特徴的な動作が,視覚コミュニケーションの媒体としてよく用いられ,多くの場合,この二つが組み合わされ特徴的な部位を強調する動作となって現われる。たとえば,セグロカモメの親は,食物を巣に持ち帰ったとき,ヒナを見つけるとクチバシで地面を軽く叩く行動を行なう。この行動は,ヒナから「物乞い行動」を引き出す行動である。つまり,特徴的な部位(赤い点のついたクチバシ)を強調するように,特徴的な行動を行なうことで(クチバシで地面を叩き,先端を顕示する),信号をヒナに送っているのである。

 さらに,哺乳類の多くの種においては,顔や体による情動表出が視覚コミュニケーションの媒体として用いられることが広く観察されている。とくに霊長類においては顔面の表情筋がよく発達しており,多様な表情を表出することが可能である。また,類人猿においては,ジェスチャーgestureを媒体としたコミュニケーションを数多く使うことが知られている(身振りコミュニケーションgesture communication)。これらの研究の多くは飼育下の動物を対象に行なったものであるが,その多くが,彼らが要求内容や受信者の状況,理解状態に合わせて柔軟にジェスチャーを用いることを報告している。たとえば,受信者がすでに発信者に注意を向けている場合には,音声を伴わないジェスチャーを用いる,また受信者に信号が正しく伝わっていない場合には,繰り返しそのジェスチャーを示す,あるいは同義の異なるジェスチャーを用いるなどの行動が報告されている。さらに,最近では,野生下のチンパンジーが60を超えるジェスチャーのレパートリーをもち,柔軟にそれらのジェスチャーを用いていることも報告されている。こうして確認されたジェスチャーの多くがゴリラやオランウータンにおいても見られており,類人猿全体である程度共有されていることは,身ぶりコミュニケーションの進化を考えるうえで興味深い。

【類人猿の言語習得研究】 初期の言語習得研究は,ケロッグ夫妻Kellogg,W.N.,& Kellogg,L.A.やコーツKohts,N.,ヘイズ夫妻Hayes,K.J.,& Hayes,C.らによるものであり,ヒトにとって最近縁種であるチンパンジーにヒトの音声言語を教える試みであった。チンパンジーの子どもをヒトの子どもと同じ環境で育てることで,言語を習得するかを分析したのである。しかしながら,最も成功したチンパンジーですら,6年間もの時間を訓練に費やしたにもかかわらず,わずか4語の習得にとどまっている。なお,この失敗はヒトとチンパンジーの発声器官の解剖学的違いによる制約のためであることがのちに示されている。こうした失敗を受け,その後の言語習得研究は視覚性言語へと対象を移行させた。ガードナー夫妻Gardner,R.A.,& Gardner,B.T.は,ワショウという名のチンパンジーにアメリカ式手話(ASL)を訓練した。3年半の訓練ののちに,名詞・動詞・形容詞など130余りの語彙を習得し,さらには簡単な2語文,3語文を作成することができた。この研究の後,他の研究者もこれに追随し,チンパンジーを対象に同様に訓練をする試みが拡大するとともに,そのほかの類人猿種(パターソンPatterson,P.によるゴリラのココ,マイルズMiles,L.によるオランウータンのシャンテックの研究)へと広がりを見せた。そうした研究のなかで彼らが単語を組み合わせて新しい事象を表現したという報告もある。これは,彼らの発話は決して訓練場面や訓練対象に限定された個別の連合学習のみではなく,ある程度習得した単語を柔軟かつ応用的に利用できるといえるであろう。

 さらに,言語習得研究はより詳細な言語的機能の分析を目的とする人工言語訓練へと引き継がれた。訓練の主な研究グループとしては,アメリカのプレマックPremack,D.のグループ,サベッジ・ランボーSavage-Rumbaugh,E.S.のグループ,そして日本の松沢哲郎のグループがあり,チンパンジーとボノボの人工言語習得が調べられた。人工言語としては,プラスチック片やモニターにて呈示される図形文字が用いられた。それらの結果,彼らが,対象・行為・対象の属性を正しく人工言語で表現できることが示され,表象的な象徴能力をもつ,文の種類としても平叙文・条件文・要求文を使えるようになる,また,萌芽的な文法ともよぶべきある程度の語順規則を習得することもわかった。

【イヌのことば】 イヌは霊長類と比べると系統発生的にはヒトからは非常に離れているが,長い家畜化の歴史を通してヒトと環境をともにし,ヒトと緊密な関係を構築し,ヒトとコミュニケーションを取るように進化してきた。そしてその結果,ヒトと強い絆を形成し,最も人気のあるコンパニオンアニマルとしての座を不動のものとしている。類人猿とは異なる意味において進化の隣人ともよべる存在である。こうした特殊な進化経緯があるため,イヌの認知能力研究は近年高い注目を浴びている。イヌは本来群れをなす動物であり,同種間のコミュニケーションがよく発達してる。その手段として大きな位置を占めるのは,カーミングシグナルcalming signalとよばれる体全体やその一部による信号発信である。これは,他個体との闘争回避に用いられる信号であり,30種類ほどのレパートリーがあることが知られている。たとえば,あくびをする,背中やお尻を向ける,地面のにおいを嗅ぐ,尾を振る,カーブを描きながら歩く,伏せる,といった行動が挙げられる。こうした同種他個体への信号発信により,相手に敵意がないことなどを知らせ,不必要な闘争を回避している。

 このカーミングシグナルの他にイヌのコミュニケーション能力を特徴づけるのは,異種であるヒトと密なコミュニケーションを取ることである。たとえば,ヒトの指さし行動に対する理解においては,類人猿よりもイヌの方がより正確に行なえることが報告されている。また,イヌは自分では解決不可能な問題に直面したときにヒトの顔を見てアイコンタクトを取り援助を求める。そして,ヒトの注意を意図的に特定のものに向けさせるような,相手の注意の操作も行なうことがある。さらに,イヌはヒトの発する音声信号についても高い理解を示す。これは,さまざまな声符を用いてイヌを訓練することが可能であることからもうかがえる。また,音声で発せられた物の名前についても相当量の識別が可能であり,それぞれの単語が指し示す対象について正しく理解する。さらに,イヌは物の名前を覚える際に,新規な単語は新規な物体に関連づけることができる。すなわち,排他律を用いたことばのマッピングが可能である。たとえば,新しい単語を用い,それを回収してくるように指示をすると,イヌはたくさんの既知の物に囲まれた未知の物体を選ぶことができる。さらに,驚くべきことに,そうして関連づけた名前をすぐに覚え,数週間の期間をあけた場合でも,その名前に対して正しく反応をする。こうした排他律による言語マッピングおよびそれによる言語習得はファストマッピングfast-mappingとよばれており,ヒト以外の動物ではイヌのみで例証されている。

【その他の動物のコミュニケーション】 上記以外の動物においても,哺乳類や鳥類において聴覚・視覚ともにさまざまなコミュニケーションが報告されている。ここでは,社会性昆虫のコミュニケーションを記述する。まず,社会性昆虫において広く報告されているのは,聴覚コミュニケーションと化学的コミュニケーションである,たとえば,聴覚コミュニケーションでは,同一環境内の他の昆虫種と自種を区別するため,種特異的な周波数,周期,音圧等をもつ聴覚信号を用いてコミュニケーションを行なっている。コオロギの雄は,翅の開閉を繰り返すことで摩擦音を出し雌を誘引することが知られているが,その摩擦音の周期には種による違いがある。また,キリギリスにおいても,超音波を出すことで他種の用いる音との周波数重複を避ける種や,非常に低い音圧に検出域をもつ聴覚器官を備えることで,広範囲にわたる求愛音の検出を実現している種などがいる。また,このような摩擦音を用いたコミュニケーションではなく,翅音による空気振動をコミュニケーションの媒体として用いる種もいる。こういった空気振動は,距離による情報の減衰が著しいため近距離でのコミュニケーション媒体である。たとえば,ミツバチは,翅音を用いて,シマリング(防衛行動)やクイーンパイピング(処女王による鳴き),揺すり行動(巣内の個体の活性化)などのさまざまなコミュニケーションも行なっていることが報告されている。

 昆虫における化学的コミュニケーションでは,性フェロモン,警報フェロモン,道しるべフェロモンなどの存在が報告されている。これらのフェロモンpheromoneは揮発性で,お互いに離れた個体間でも有効である。たとえば,アリは触覚によく発達した化学物質センサーをもつ。アリが行列を作るのも,餌を見つけたアリが巣へ戻る際に地面に分泌した道しるべフェロモンを他の個体が検出しているためである。また,警報フェロモンは,他個体にすばやい逃避あるいは攻撃を引き起こす。逃避か攻撃かどちらの行動が引き起こされるかは,警報フェロモンの濃度に起因する。つまり,低濃度では攻撃が,高濃度では逃避が引き出される。また,不揮発性のフェロモンを使ったコミュニケーションも報告されている。巣仲間識別フェロモンや帰巣フェロモンなどである。これらのフェロモンは,直接相手に触角で触れて初めてわかるコンタクトケミカルである。

 昆虫は全般に鳥類・哺乳類と比べると視力がよくないため,視覚コミュニケーションはあまり見られないが,ハチのように優れた視覚をもつ種もある。こうした種は視覚コミュニケーションも行なっている。たとえば,ミツバチは,巣の他個体に蜜や花粉の場所を知らせるために,巣の入口で収穫ダンスを行なう。蜜源までの距離に応じ,近い場合には円形ダンス,遠い場合には8の字ダンス,と使い分ける。また,8の字ダンスの速さは蜜源までの距離を,8の字中央の直線部分は蜜源の方向をそれぞれ符号化していることがわかっている。ダンスの方向や速さが密源に応じて変化するという可塑性を備えた非常に優れたシステムであるといえる。【鳥の歌学習】 約9000種の鳥類のうち,スズメ目,アマツバメ目,オウム目に属する約5000種は,程度の差はあれ,コミュニケーションに用いる発声信号を後天的な学習により獲得する。これを発声学習vocal learningという。学習される音声には,社会的な文脈で用いられる単音節のものと,異性の誘因や同性の駆逐などの性的な文脈で用いられるものとがあるが,後者はその音響構造の特徴から歌とよばれる場合がある。鳥の歌(さえずりsong)は,さまざまな音型をもつ要素が固定的または変異する配列で歌われる複雑な行動で,ほとんどの場合は雄にのみ見られる行動である。スズメ目鳥類の雄の歌学習を例示する。

1.聴覚鋳型と学習の神経基盤 鳥の歌学習には二つの段階が必要であることが,この分野の創始者であるマーラーMarler,P.R.と小西正一により1960年代に提案され,鋳型仮説template hypothesisとしてまとめられている。第1は,手本となる歌を環境から選び取り聴覚的に記憶(鋳型を形成)する過程で,この段階を感覚学習期という。第2は,聴覚的鋳型を手本に,聴覚フィードバックを通して自身の発声を錬成する過程で,この段階を感覚運動学習期という。これらの学習期は,種によっては一部重なり,種によっては完全に分離されている。感覚学習期に最適な時期は種によってある程度決まっているため,これを臨界期とよぶ場合もある。鳥の歌を支える神経系は,ノッテボーンNottebohm,F.らによって1970年代にその基盤が解剖学的に同定され,以降精緻化されてきた。これを歌システムという。歌システムは歌の運動制御にかかわる後部伝導路と歌の学習にかかわる前部伝導路からなる。後部伝導路の損傷により歌の音響構造が劣化し,前部伝導路の損傷により歌の学習が障害される。後部伝導路は雄でよく発達しており,雌では退縮しているが,前部伝導路の一部は雌にも見られる。後部伝導路は,延髄にある呼吸発声中枢を前脳にある運動皮質対応部位が制御し,さらにそれを上位の中枢が制御するように構成されている。前部伝導路は,この上位中枢から大脳基底核の一部に投射され,いったん視床に戻り,再び前脳に投射され,そこからさらに運動皮質対応部位に投射される。歌システムには聴覚鋳型に当たる部分が同定されていないが,近年ボルフィスBolhuis,J.J.らによって上位中枢の近傍にある聴覚中枢の一部が聴覚鋳型であることが示唆されている。この部位の神経細胞は,父親の歌との一致度が高いほど強い活性をもつことがわかっている。

2.言語獲得と鳥の歌学習との比較 鳥の歌学習と人間の子どもが言語を獲得する過程にはいくつかの類似点がある。聴覚的記憶が発声運動を導くこと,それぞれの学習が発達期の時間的な制約のもとに成立すること,大脳皮質と大脳基底核を含む複雑な脳神経系により可能になっていること,などである。一方相違点としては,人間言語は無限の意味を表象できるのに対し,鳥の歌はその機能が異性の誘因や同性の駆逐など性的な文脈に限定されていることである。ある種の鳥は,歌の要素配列や用いる要素の組み合わせをさまざまに変えて歌う場合があるが,このことによりさまざまな意味を伝達しているという証拠はない。このような変異は,歌の意味を変えるのではなく,求愛や駆逐の強度を変えているにすぎない。

3.歌と言語の進化 鳥の歌の系列規則が,人間言語の統語構造と比較しうるかどうかについて長い間議論が続いている。岡ノ谷一夫らは,鳴禽類の一種であるジュウシマツLonchura striata var.domesticaの歌の系列規則を分析し,それがチョムスキー階層の中で有限状態文法という範疇に対応することを指摘した。この範疇は,形式文法としては最も単純であるが,要素配列の切り替えや要素のチャンキングなど,人間言語の基盤的特徴ももっている。系列の生成については鳥の歌はせいぜい有限状態文法止まりであるが,系列の知覚における鳥の能力はどうであろうか。オペラント条件づけによる音系列弁別実験や,馴化-脱馴化法による規則逸脱検出実験が多数なされてきたが,結論は出ていない。

 発声の学習は,鳥類のスズメ目,アマツバメ目,オウム目だけではなく,鯨類の一部,ゾウ,そして人間で見られる行動である。この行動の進化を説明することが難しいのは,これらの動物の系統関係から,この形質は独立に進化したと考えられることである。独立に進化したとすれば,発声の学習に用いられる神経系には共通性がある必然性がないが,用いられる脳部位や発現する遺伝子などを比較すると,実際には系統を超えた多くの共通性があることがジャービスJarvis E.D.らによって明らかにされている。また前述したように,ほとんどの動物種で,発声は雌雄間の誘引あるいは駆逐というような性的関係を前提として学習される。こうした事実から,人間の言語の起源と進化について,鳥類の歌学習を手がかりに考えてゆくことが可能であろう。 →言語の起源 →コミュニケーション →聴覚
〔足立 幾磨〕・〔岡ノ谷 一夫〕

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