翻訳|psychedelic
語源的には心を明らかに表すという意味。1943年スイスの化学者ホフマンAlbert Hofmann(1906―2008)が偶然に発見したLSDという薬品は統合失調症(精神分裂病)の幻覚と類似の幻覚体験をもたらしたので、あたかもこれが人間の無意識を表しているかのように考えられたことから、こうした人工的につくられた幻覚が無意識的な心を表しているという意味でサイケデリックという。この種の幻覚を誘発するものは、このほかに大麻(たいま)、メスカリンなどがある。これらの薬物は、いずれも知覚、認識に影響を与えるもので、心の深層を現すものであるかのようにみなされている。
なお、LSD、メスカリンといった薬物によっておこされる幻覚に関連のある芸術のことを、1960年代にはサイケデリック・アートpsychedelic artと総称するようになり、一時アメリカで流行した。しかしその後は、電子技術を使ってつくられる光・音などによって創作されるグラフィック、音響効果のことをさすようになった。従来の絵画は視覚的で静止しているが、サイケデリック絵画といわれるときは、運動的・聴覚的効果をも包括している。
[外林大作・川幡政道]
『レスター・グリンスプーン、ジェームズ・B・バカラー著、杵渕幸子・妙木浩之訳『サイケデリック・ドラッグ――向精神物質の科学と文化』(2000・工作舎)』
幻覚剤(おもにLSD)を服用した精神状態。一般に〈サイケ〉と呼ばれる。ギリシア語のpsychē(精神,魂)とdēlos(目にみえる,明らかな)または英語のdelicious(美味な)の合成語とされる。1960年代前半にアメリカにおいてT.リアリーやK.キージーがLSDによる意識変革を提唱したのをうけて,65年ころサンフランシスコ,ロサンゼルスなどで幻覚剤による酩酊状態の中で行うロック演奏が盛んに試みられるようになり,それをサイケデリック・ロックと呼んだ。代表的な演奏グループはザ・バーズ,グレートフル・デッドなど。その演奏には幻覚効果を助長するような照明を伴い,また彼らの演奏会のポスターやレコードジャケットは原色を曲線的に組み合わせた独特のデザインがなされるなど,音楽領域だけにとどまらぬサイケデリック文化ともいうべきものを,60年代後半のアメリカ西海岸に開花させた。しかしいずれも70年代に入るとともに下火となった。
執筆者:中村 とうよう
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新