改訂新版 世界大百科事典 「サクサン」の意味・わかりやすい解説
サクサン (柞蚕)
Antheraea pernyi
鱗翅(りんし)目ヤママユガ科の昆虫。成虫は前翅の開張が115~140mmの大型のガで,黄色から暗褐色を呈する。繭から絹糸をとるために古くから飼育され,原産地の中国では西暦26年に絹糸をとった記録が残されており,現在では中国東北の遼寧省や吉林省などで大量に飼育されている。日本には1874年に中国より輸入され長野県の有明地方を中心に飼育されていたが現在ではほとんどない。サクサンの飼育は野外で放養育の形で行われ,クヌギ,ナラ,キヌヤナギなど(この類を中国で柞と呼ぶ)を適当に剪定(せんてい)し,幼虫を木から木へ移しながら飼育する。幼虫は直径2.5~3mmの卵殻を食い破って孵化(ふか)してくるが,孵化後にも卵殻を食べる習性があり,各齢の幼虫も脱皮後に脱皮殻を食べる。一般に水分の多い葉を好んで食べ,雨滴を嚥下(えんげ)する習性も有する。幼虫は頭部が淡褐色で胸腹部は緑色を呈し,各体節には3対の毛叢突起を有する。各突起には5~10本の剛毛が存在し,亜背線にある突起はとくに大きく,気門の上下にある二つは小さい。壮蚕になると毛叢突起の外側に金属光を呈する輝点を生じるものが多い。幼虫の絹糸腺は後部糸腺が最も発達していて,中部糸腺も後部と同様に多数の不規則な屈曲を示す。幼虫は4眠した後5齢で最大体長約100mmに成長し老熟幼虫となり,木の葉を巻いて中に褐色の繭を作る。年2回発生し(2化性),蛹態(ようたい)で越冬する。柞蚕糸は絹紬(けんちゆう)の原料として用いられていたが,現在においては家蚕糸と混織したものや光沢のある特徴を生かした織物として利用されている。
執筆者:小林 正彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報