花木、果樹、庭木などの生育、開花、樹形、着果促進のため全体の調和を図りつつ、健全に育てる目的で枝を切ることをいう。また樹形を整える作業も含むことから、剪定と整枝は表裏一体であるため区別しないこともある。
剪定は主として果樹や花木では重要な管理作業で、とくに果樹では花芽の着生、果実の結実上欠かせないものである。むだ枝を取り除き樹枝や葉に受光量を増すくふうにより果実の増収を図り、また通風をよくすることで病害虫の発生や被害を少なくしたり、隔年結果を防ぐなどの効果がある。剪定することにより農薬散布、収穫などの管理の省力化にも役だっている。
[堀 保男]
わが国で剪定技術が重要視されるようになったのは明治時代に入ってからで、果樹栽培の普及が大きな原動力となった。とくにヨーロッパからの果樹導入とともに開拓使に招かれた欧米人たちの技術の影響も大きかった。それ以前には庭木や盆栽などで整枝を含めた剪定技術として発達していたが、現在のように生産技術に結び付いたものではなかったといわれる。
一方、ヨーロッパでは庭園の樹木の装飾的整枝の発達に伴って果樹についても一定の形に仕立てることが行われるようになり、剪定技術が生まれたといわれる。とくに樹形を幾何学的に仕立てることによって観賞価値を高めることとあわせて収穫も楽しむことが17世紀ごろから始まったとされる。
[堀 保男]
樹木の種類(落葉樹、常緑樹、つる性植物)や仕立て方(形)、養成木・完成木別によって多少異なるが、一般的には果樹、花木、庭木に大別し、その目的により時期、方法を定める。
(1)果樹 樹冠全体に日当りをよくし枝葉の充実と、果実の増収、品質向上、隔年結果を防止するために行うもので、程度により、基部より数芽を残して切る強剪定と、先端部のみを切り詰める弱剪定に分けられる。
(2)花木 花をよく咲かせるための剪定なので、強剪定はできないものが多い。主として春から初夏に咲く一季咲き性のものは花後に、四季咲き性のものは整枝を兼ねて弱剪定とする。
(3)庭木 仕立ての完成した樹木では、整枝を主体とした弱剪定で樹形の維持を行うが、荒木(未完成木)から仕立てる樹勢旺盛(おうせい)なものは強剪定によることが多い。
[堀 保男]
冬の休眠期に実施する冬期剪定と、生育期間中の初夏に行う夏期剪定に大別できる。冬期剪定は、落葉直後から早春の樹液が流動する前に行う。また常緑樹では厳冬期を避けて2月下旬から3月中旬にかけて行ったほうがよい場合もある。なお落葉樹でも樹液の流動開始の早いカエデ類では早春がよいものもある。夏期剪定は、梅雨前後の時期に幹や不要部分からの徒長枝、ひこばえ(やご)などを除去するもので、主として骨組枝の成長を妨げるものを切り取る。
[堀 保男]
枝切り剪定としては、枝の出た基部から切り取り、余分な枝をつくらずに枝を充実させる間引き剪定と、強く伸びた枝は頂部優勢といって下のほうから芽が出にくくなるので、数芽残して途中から切って短くする切り返しの剪定方法がある。
[堀 保男]
(1)枝の出し方。養成木では将来の樹形を決定することになるので、観賞木のように幹や小枝の美しさを求めるものは一度に小枝を多く出し、花木では2~5本を出したほうがよいものもある。また果樹では柵(さく)仕立て、開心自然形、変則主幹形仕立てなどがあり、それぞれ枝の出し方に特徴がある。
(2)剪定が必要な枝。樹種や整枝目的により差はあるが、一般的に剪定を必要とする枝には徒長枝、こみ枝(ふところ枝)、幹吹き枝(胴吹き枝)、ひこばえ(やご)、逆さ枝、平行枝、車枝、かんぬき枝などがある。
(3)剪定用具。枝の太さや整枝の方法により使い分ける必要があるが、普通使用されている用具としては、剪定鋏(ばさみ)、木鋏、高枝切り、鋸(のこぎり)などのほか、付属具として脚立(きゃたつ)、梯子(はしご)、踏み台、誘引縄、支柱材などがある。
[堀 保男]
植物,おもに樹木を望ましい形にするために枝などを切ることをいう。果樹,造園樹木などでよく行われる。開花,結実を調節し,収量を上げるために,枝を主体に形を整える剪定を整枝trainingといい,観賞価値を高めるように樹姿を整える剪定を整姿trimmingと称して区別する。剪定の目的は,(1)形を美しく整然と,またはある特定の形につくる,(2)生育を調節し,開花,結実を良好な状態にする,(3)古い枝を除くことにより新しい枝を発生させて若返らせる,(4)密生した枝,枯枝,病枝など生育の障害になる部分を除いて健全な状態にする,(5)徒長を抑え,風害,寒害,病害などに対する抵抗力を強化する,(6)挿木に適当な枝を切り,生産用に供する,(7)移植に際して枝葉を切除することにより蒸散など水分消費を少なくして,活着をよくする,などが考えられる。
総じて休眠期,または生長緩慢な時期がよい。春芽が出る前に行う冬季剪定はこれであり,生育への影響がもっとも少ない。しかし厳寒期は寒害のおそれがあるので注意する。逆に生育を抑える必要があるときには夏季剪定を行うが,これは街路樹などでは台風害を防ぐために施される。花木では開花終了後,次の花芽形成までの間が次期開花に影響の少ない時期である。一般に,針葉樹,落葉広葉樹では12~3月,常緑広葉樹では3~4月が適期である。
基本的な形づくりのために,大枝を大のこぎりなどで切り落とす(大枝払い)。次に形を整えるために,はさみ,のこぎり,かまなどで不適当な枝を切り取る(枝割り)。最後に形をさらに整え補正するために,密生した枝,飛び出した枝などをはさみで切除する(はさみ透かし)。枝の切り方では,基部から切り取ることを間引き,中途で切り短くすることを切返しという。刈込物や生垣のように一定の形をつくっているものは,刈込ばさみ,かまなどを用いて仕上げる(刈込み)。マツ類では特殊な仕立て方法として,春季伸びる若い緑茎を2~3本,摘心して残す緑摘みと,やや遅れた時期に若茎の2~3本の上部の葉を残して他をもみ除くもみ上げがある。枯死枝,病害枝,過密枝,基部から叢生(そうせい)する枝(ひこばえ),徒長枝は剪定を要する。剪定作業は,枝を分枝個所から切除する場合と,中途から切断する場合がある。前者の場合,大枝ではのこぎりを用いてまず分岐部分からやや離れた下部に切れめを入れ,次に少し先の上部から切り進むと枝は自重により下部の切れめの部分まで裂けて落ち,最後に残部を分岐個所で切り落とす。切口には防腐のためペンキなどを塗る。後者では芽の直上から斜めに切除し,切口が大きい場合は同様にペンキ塗りか空缶などで覆って雨水の浸入を防ぐ。萌芽力の弱い樹木(シャリンバイなど),切口から腐りやすい樹木(ソメイヨシノなど)などは剪定にあたって注意を要する。生育上不要な枝の名称を図に示す。
執筆者:北村 文雄
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…宿根草は株分けや挿芽などで繁殖させ,適時に植え付ける。樹木類は挿木,接木,取木などで苗木をつくって,鉢植えや庭木用として栽培するが,成品となるまでは年月を要し,その目的によって,剪定(せんてい),誘引,摘心,断根,植替えなどの技術を駆使しなければならない。(1)繁殖 花卉や野菜では種子をまいて育てる場合と,株分苗や球根の植付け,挿芽苗,挿木苗,取木苗から育苗する場合がある。…
※「剪定」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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