サロメ(英語表記)Salome

翻訳|Salome

精選版 日本国語大辞典 「サロメ」の意味・読み・例文・類語

サロメ

(Salōme)
[一] ユダヤの王妃ヘロディアス(ヘロデヤ)の娘。ヘロデ王の前で踊り、その報償として預言者バプテスマヨハネの首を求めた。
[二] (原題Salomé) 戯曲。一幕。オスカー=ワイルド作。一八九三年フランス語で発表。サロメが、預言者ヨカナーン(ヨハネ)の首を得ることによって恋を成就させたという伝説に基づいて創作。一八九六年名女優サラ=ベルナールの主演によりパリで初演。
[三] 楽劇。一幕。リヒャルト=シュトラウスが(二)のドイツ語訳を台本として作曲。一九〇五年ドレスデン初演。

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デジタル大辞泉 「サロメ」の意味・読み・例文・類語

サロメ(Salome)

新約聖書に見える女性。母に教唆され、踊りの褒賞として継父であるユダヤ王ヘロデ=アンティパスにバプテスマのヨハネの首を求め、これを殺させた。
オスカー=ワイルドの戯曲。一幕。の伝説に取材。1893年、フランス語で刊行。1896年、パリで初演。
リヒャルト=シュトラウス作曲の楽劇。全一幕。ワイルド作の戯曲に基づく。1905年、ドレスデンで初演。

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改訂新版 世界大百科事典 「サロメ」の意味・わかりやすい解説

サロメ
Salome

ガリラヤの太守ヘロデ・アンティパスHerod Antipasの後妻ヘロデヤHerodiasの娘。ただし,その物語を記したマタイ・マルコ両福音書には,サロメの名は記されていない。《マルコによる福音書》によれば,王妃ヘロデヤはヘロデの異母兄ピリポの妻であったが,サロメを連れてヘロデと再婚した。しかしその不義の婚姻をバプテスマのヨハネに非難されたため,娘をそそのかして父王の誕生日の祝宴での踊りの報酬としてその首をはねさせた。娘はこれを銀の盆に載せて母に捧げたという。さらにヨセフスの《ユダヤ古代史》にはサロメの実録があり,ヘロデヤの連れ子としてヘロデの王宮にあった後,19歳でヘロデ・ピリポ2世と結婚し,24歳で未亡人となりアリストブロスと再婚,3人の息子の母となったとある。後年になるとサロメは母王妃ヘロデヤと混同されてゆき,サロメ=ヘロデヤ伝説が形成され,強い性格が与えられ,ヨハネの首を所望するのもサロメの意志によるとする話も作られた。4世紀の終りにヨハネのためにアレクサンドリアに教会が建立され,ヨハネ信仰が強くなるにつれて殉教に役割を果たしていたサロメへの非難が強まり,しだいに悪徳と退廃の象徴ともなっていく。このような王女サロメの挿話は中世から現代まで美術,文学,音楽の主題としてヨーロッパ各国各時代の多くの作家たちに採り上げられてきている。

サロメは〈バプテスマのヨハネの生涯〉の最後の殉教場面に登場するが,各国中世聖堂にある壁画や浮彫に描かれたその像は,主として次の三つの姿をとることが多い。(1)宴会の場面で踊る姿,(2)ヨハネ断首の場面を見ている姿,(3)盆の上の首を王妃ヘロデヤに捧げる姿。これらの図像の例としては,イタリアのベローナにあるサン・ゼノ・マジョーレ教会の門扉のレリーフ(12世紀),サン・マルコ大聖堂洗礼堂のモザイク画(14世紀),フィレンツェ洗礼堂扉の鋳像(14世紀),フランス,ルーアン大聖堂の破風にある逆立ちの彫像(13世紀)が有名である。また,ルネサンスの画家,ジョットリッピ,レーニ,ドナテロらの絵画には,華やかな宴会の席上で優美な衣をまとって踊る姿が多い。17世紀にはユディトと混同されるなどして多くの画家に描かれ,L.クラーナハがその代表である。19世紀末には時代を象徴する女人像としてG.モロー,ルドン,シュトゥック,クリムト,A.ビアズリーらによって描かれている。

オリエントの王女と聖者という人物の組合せ,舞と断首という異常な事件,異国趣味と神秘的な幻想的背景などが文学者たちの空想を刺激し,ハイネは長詩《アッタトロール》,フローベールは小説,マラルメは詩《エロディアード》,ユイスマンスは《さかしま》を書いた。O.ワイルドは一幕劇《サロメ》(1893)で,恋心から聖者の首をはねて口づけし,盾の下に圧死する王女像を定着させた。ワイルドのこの作品はイギリス本国では宗教上の理由で上演禁止され,初演はパリのテアトル・ド・ルーブル(1895),本国での上演は1905年であった。日本では1913年松井須磨子主演で,島村抱月の芸術座が帝国劇場で上演した。

ワイルドの《サロメ》のH.ラハマンによるドイツ語訳を基に,R.G.シュトラウスはオペラ《サロメ》を作曲,マスネーは繊細で優美な曲《エロディアード》(1881)を書き,F.シュミットはR.デュミュエールの詩を基にバレエ曲《サロメの悲劇》(1907)を作曲している。
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サロメ
Salome

R.G.シュトラウスの第3作目の1幕のオペラ。O.ワイルドの同名の戯曲(ドイツ語訳,H. ラハマン)に基づく作品で,1905年,ドレスデンのオペラ座で初演され,その初演は,官能的で頽廃的な筋書と絢爛豪華なシュトラウスの音楽によってセンセーションをまきおこした(日本初演1962)。物語は聖書の記述を背景にくりひろげられ,ヘロデ王の義理の娘サロメが,預言者ヨカナーン(ヨハネ)に恋し,《七つのベールの踊り》を踊って,幽閉されているヨカナーンの首を手に入れるというもの。シュトラウスはワーグナーの楽劇から大きな影響を受けながら全体をまとめ,ライトモティーフを組織的に用い,分厚いポリフォニックな音の織地,アリオーソ的な歌唱法,豊かな色彩的なオーケストレーション,不協和音を含む大胆な和声法などによって,激しい表現力をもった官能的な作品を完成した。20世紀初頭に初演されたが,世紀末的な色彩が強い作品であると評される。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「サロメ」の意味・わかりやすい解説

サロメ
Salomé

イギリスの作家 O.ワイルドの戯曲。 1893年刊。フランス語で書かれ,作者の友人 A.ダグラスによって英訳 (1894) された。聖書の物語に材をとる。ユダヤの王妃エロディアスには,最初の結婚によってもうけた娘サロメがいる。サロメは王に捕えられている預言者ヨカナーンを恋しているが,ヨカナーンは彼女を拒む。サロメは王の求めに応じて踊り,褒美にヨカナーンの首を所望する。何でも望むものを与えると約束していた王は,やむなくサロメの願いを聞き届ける。サロメは首を持って踊り狂い,王の命令を受けた兵士たちに殺害される。耽美的な倒錯趣味と華麗な修辞によって有名。 96年パリで初演。イギリスでは,内容が冒涜的という理由で,1931年にいたるまで公演が禁止されていた。英語版のために A.ビアズリーが描いた挿絵は著名。のちに R.シュトラウスによってオペラ化 (1905) された。

サロメ
Salome

1世紀頃在世のユダヤ王,ヘロデ大王の孫娘,ガリラヤの分封王ヘロデ・アンティパスの後妻ヘロデアの娘。彼女は叔父と結婚したが,のち小アルメニアの王アリストブロスと再婚した。このサロメは,伝統的にヘロデアと最初の夫ピリポ (ヘロデ・アンティパスの異母兄弟) の娘とみられ,ヘロデ王に踊りの褒美としてバプテスマのヨハネの首を求めたとされている (マタイ福音書 14・1~12,マルコ福音書6・14~29) 。このサロメの物語は早くからキリスト教芸術の素材となっている。

サロメ
Salome

ユダヤの歴史に登場するゼベダイの妻,使徒ヤコブやヨハネの母。またおそらくはイエスの母マリアの姉妹 (ヨハネ福音書 19・25) 。1世紀頃在世。

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百科事典マイペディア 「サロメ」の意味・わかりやすい解説

サロメ

新約聖書中の女性。ユダヤ王ヘロデ・アンティパスの後妻ヘロデヤと先夫ヘロデ・ピリポとの間の娘。王とヘロデ・ピリポは兄弟。王の宴席で踊り,その褒美(ほうび)として王とヘロデヤの結婚に反対したバプテスマのヨハネの首を所望してこれを得たという。古来,美術・文学の主題として好まれ,特に世紀末芸術では〈宿命の女(ファム・ファタル)〉の典型として,ワイルド,ビアズリー,G.モローらに採り上げられたほか,R.シュトラウスらの音楽作品も多い。
→関連項目ヘロデ・アンテパス

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デジタル大辞泉プラス 「サロメ」の解説

サロメ〔オペラ〕

ドイツの作曲家リヒャルト・シュトラウスのドイツ語による全1幕のオペラ(1905)。原題《Salome》。オスカー・ワイルドの戯曲『サロメ』を題材とした作品。ヨハネの首を所望するサロメがユダヤ王ヘロデの前で踊る場面で演奏される「7つのヴェールの踊り」が有名。

サロメ〔映画〕

1923年製作のアメリカ映画。原題《Salome》。監督:チャールズ・ブライアント。

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旺文社世界史事典 三訂版 「サロメ」の解説

サロメ
Salome

『新約聖書』の登場人物,ガリラヤの太守ヘロデ=アンティパスの後妻ヘロデアの娘
父王の誕生日の祝宴で舞った褒美 (ほうび) に,母ヘロデアにそそのかされ,洗礼者ヨハネの首を所望した王女。

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世界大百科事典(旧版)内のサロメの言及

【オペラ】より

…このような理由から,すぐれた戯曲がただちにオペラに適するとは限らず,すぐれたリブレットが,文学的価値が高いとも限らない。とはいえ,メーテルリンクの戯曲によるドビュッシーの《ペレアスとメリザンド》,ワイルドの戯曲によるR.シュトラウスの《サロメ》,G.ビュヒナーの原作によるベルクの《ウォツェック》のように,ごくまれに幸福な結びつきが見られるのも事実である。
[オペラと歌舞伎]
 明治年間にドイツに留学した森鷗外は,故郷への便りの中で,オペラという言葉にかえて〈西洋歌舞伎を見た〉と記したという。…

【サロメ】より

…ガリラヤの太守ヘロデ・アンティパスHerod Antipasの後妻ヘロデヤHerodiasの娘。ただし,その物語を記したマタイ・マルコ両福音書には,サロメの名は記されていない。《マルコによる福音書》によれば,王妃ヘロデヤはヘロデの異母兄ピリポの妻であったが,サロメを連れてヘロデと再婚した。…

※「サロメ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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