サンドラール(その他表記)Blaise Cendrars

改訂新版 世界大百科事典 「サンドラール」の意味・わかりやすい解説

サンドラール
Blaise Cendrars
生没年:1887-1961

スイス国籍のフランスの作家。サンドラルスと表記されることもあるが正しくない。16歳で学業を放棄し,ロシア・極東手始めに世界各地を放浪,その間,さまざまな職種・事業を転々として,極貧と新興成金の両端を往復する〈危険な暮し〉の燃焼に明け暮れた。1912年,アメリカから戻り,《ニューヨーク復活祭》を発表,句読点を廃した革新的詩形式はアポリネールらに強い影響を与えた。翌年には,新世界の遍歴詩《シベリア横断鉄路》を続いて発表し,スピードとコスモポリタニズムに対して現代詩の嗜好を方向づける役割を果たした。第1次世界大戦には,スイス国籍のゆえに,〈外人部隊兵〉として参戦し,被弾して右腕を失う。18年,新しい長編詩《パナマ,7人の叔父冒険》を発表し,多彩な現代世界の万華鏡的スケッチをねらった速度感あふれる文体を創造する。その後も旅行癖は止まず,作品の視野はますます広がり,長編詩の延長発展とでもいうべき前衛的小説をやつぎばやに発表し,一作ごとに新しい様式を打ち出す離れ業を演じのけた。フランス小説の文体に革命をもたらしたといわれる《黄金》(1925)をはじめ,《モラバジーヌ》(1926),《ダン・ヤックの告白》(1929)等々の長編小説群は,すでに20世紀文学の古典として高い評価を得ている。43年,4巻から成る特異な回想録シリーズの第1巻《雷に打たれた男》を発表し,49年に刊行された《空の分譲地》で一応の完結を見る。54年には《全詩集》が刊行され,翌年には,生涯の体験の総決算的性格をそなえた長編小説《世界の果てに連れてって》を世に問い,老大家の健在ぶりを証明した。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「サンドラール」の意味・わかりやすい解説

サンドラール
さんどらーる
Blaise Cendrars
(1887―1961)

スイス出身のフランスの詩人、小説家。本名フレデリック・ソゼールFrédéric Sauser。15歳で故郷を出てロシアへ行き、その後シベリア、中国、モンゴル、ペルシアを回り、多くの職業を転々として帰国。1912年、渡米して先駆的近代詩『ニューヨークの復活祭』を書く。第一次世界大戦に際しスイス国籍の彼は外人部隊に入隊して従軍、負傷して右腕を失う。戦後、片手で叩(たた)きつけるような律動の詩集『弾性詩19編』(1919)などで、句読点の廃止や同時話法の使用など前衛的な手法を樹立した。小説『切られた手』(1946)、『天の区分』(1949)はこの冒険詩人の回想を芯(しん)に据えたなかば神話的な自伝であり、『コダック』(1924)、『ハリウッド』(1936)は時代精神の記録写真ともいうべきルポルタージュであり、『黄金』(1925)、『モラバジーン』(1926)、『世界の果てにつれていって』(1956)は強烈な破壊力をもつ物語である。1961年パリ市文学大賞を受けた。

[曽根元吉]

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百科事典マイペディア 「サンドラール」の意味・わかりやすい解説

サンドラール

スイス出身のフランスの詩人,小説家。冒険を好み,ほとんど全世界を旅行し,その体験を新しい詩形式の中に表現した。アポリネールの先駆者で立体派の一人。作品には詩集《ニューヨークの復活祭》《シベリア横断鉄道》のほか小説《黄金》《雷に打たれた男》などがある。
→関連項目ミヨー

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