農林水産業に関する試験研究のうち、とくに農業技術についての試験・調査研究を実施する機関。国立の農業試験場(現、農業・食品産業技術総合研究機構)のほか、各都道府県にも各種の公立農業試験場がある。
日本での農業の試験研究が官制による農事試験場として発足したのは1893年(明治26)である。西ヶ原(東京都北区)に本場、全国数か所に支場を置き、農産の改良増殖に関する試験、巡回講話、土質・肥料・飼料などの分析鑑定に関する事項をつかさどった。その後、養畜、土性、製茶などの各部を強化しながら本支場体制の整備統合を進めたが、やがて大正年代に入って、畜産試験場、園芸試験場、茶業試験場が農事試験場とは別に独立した。このほか蚕業試験場を含めた農業関係の試験研究機関の組織は、昭和期の第二次世界大戦を経て戦後の機構改革まで続いた。創立以来、農事試験場の研究対象は主要食糧である稲・麦などを中心に行われてきたが、とくに作物の品種改良やそのための育種組織の確立など、日本農業の発展に大きく貢献した。
第二次世界大戦後、農業試験研究機関の組織機構は、若干の変遷を経て、1978年(昭和53)までに、農業技術研究所、農事試験場、畜産試験場、草地試験場、果樹試験場、野菜試験場、茶業試験場、農業土木試験場、蚕糸試験場、家畜衛生試験場、食品総合研究所、植物ウイルス研究所、熱帯農業研究センター、農業総合研究所という体制が確立され、戦後農業の発展に対応して研究を実施してきた(これらの試験研究機関は、若干のものを除き、ほとんどが筑波(つくば)研究学園都市に所在していた)。他方、北海道、東北、北陸、中国、四国、九州には地域農業試験場があり、公立農業試験場と密接に連係して、地域農業の改善に関する試験研究を総合的な視点から行ってきた。
これらは、戦後の日本農業展開の路線に沿って編成されてきたものであるが、経済の低成長移行に伴う日本農業の転換期に直面して、1981年に農事試験場と農業技術研究所の一部(主として農業経営部門)が合体し、土地利用型農業確立のための農業技術研究を主目的として、新たに農業研究センターを構成した。ついで1983年には、農業における環境・エネルギー問題やバイオテクノロジーなどの学問分野の進展に対応するため、農業技術研究所と植物ウイルス研究所を廃止し、新たに農業生物資源研究所と農業環境技術研究所が設立された。さらに1986年、野菜試験場と茶業試験場が統合されて野菜・茶業試験場に、1988年蚕糸試験場が蚕糸・昆虫農業技術研究所に、1989年農業土木試験場が農業工学研究所に、1993年熱帯農業研究センターが国際農林水産業研究センターにそれぞれ再編された。また、2001年(平成13)4月農林水産省の国立試験研究機関の独立行政法人化に伴い、農業環境技術研究所、農業工学研究所、国際農林水産業研究センターがそれぞれ独立行政法人となり、農業生物資源研究所および蚕糸・昆虫農業技術研究所が独立行政法人農業生物資源研究所になった。同時に、独立行政法人農業技術研究機構が発足。その傘下として、農業研究センターが中央農業総合研究センターおよび作物研究所に、果樹試験場が果樹研究所に、野菜・茶業試験場が野菜茶業研究所(花き部は花き研究所)に、畜産試験場および草地試験場が畜産草地研究所に、家畜衛生試験場が動物衛生研究所に、各地域(北海道、東北、中国、四国、九州)の農業試験場が農業研究センター(北海道、東北、近畿中国四国、九州沖縄)にそれぞれ名称を変え再編された(北陸農業試験場は中央農業総合研究センターの所轄機関となる)。農業総合研究所は農林水産省付属農林水産政策研究所に改組された。
[鈴木福松]
その後、2003年に農業技術研究機構と生物系特定産業技術研究推進機構が統合して農業・生物系特定産業技術研究機構となり、さらに2006年には同機構が農業工学研究所、食品総合研究所、農業者大学校と統合・再編し、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構となった。2015年、農業生物資源研究所、農業環境技術研究所、国際農林水産業研究センター、農業・食品産業技術総合研究機構は、独立行政法人から国立研究開発法人に移行。2016年4月、農業生物資源研究所、農業環境技術研究所および独立行政法人種苗管理センターは、農業・食品産業技術総合研究機構に統合された。
[編集部 2017年7月19日]
農林水産業に関する技術および経営の試験研究を行うとともに,分析・鑑定の業務および技術の普及・指導のための講習などを行う機関。農林水産省の中央試験場としては,農業研究センター,農業環境技術研究所,農業生物資源研究所,畜産試験場,農業土木試験場(現,農業工学研究所),果樹試験場,蚕糸試験場(現,蚕糸・昆虫農業技術研究所),家畜衛生試験場,食品総合研究所,林業試験場(現,森林総合研究所)(以上は茨城県筑波の農林研究団地に所在),草地試験場,野菜試験場(現,野菜・茶業試験場),農業総合研究所などがある(上記には,行政改革によって統合・再編されたもの,独立行政法人化したものがあるので注意されたい)。また,地域試験場としては各地域ブロックごとに,北海道,東北,北陸,中国,四国,九州の地域農業試験場がある。このほかにも全国の都道府県には,それぞれの地域特性に即した農林水産業の技術および経営の試験研究を行うための都道府県立農業試験場が存在している。国立の農業試験場は1893年の勅令第18号官制によって創設された農事試験場をはじめとして,地域試験場,畜産,園芸,茶業,蚕業その他の試験場があいついで設立され,拡充強化されてきた。98年には農林省の外局として農林水産技術会議が設置され,各庁局所属の試験研究機関の一元的な総合調整機構が確立された。さらにその後研究組織の整備拡充が図られるとともに,1974年在京の中央試験場の筑波研究学園都市への移転を決定し,すでに移転が完了して今日に及んでいる。また都道府県の農業試験場は1900年の府県農事試験場国庫補助法の制定に促進されて設置が進み,しだいに農事以外の蚕業,畜産,園芸などの試験研究機関も拡充整備され,地域農業の振興に大きな寄与をしてきた。とくに48年農業改良助長法が制定され,国の試験研究機関と都道府県の試験研究機関および普及事業組織との緊密な協同がとられるようになってきたことが,第2次大戦以降の日本農業のめざましい技術革新を進めるうえで大きな役割を果たしてきたということができる。また国が分担すべき試験研究の一部を,都道府県に補助金をつけて実施させる指定試験制度は,世界でも類例がない優れた制度で,品種改良や土壌改良,病害虫防除その他の技術開発のうえで著しい成果をあげてきている。
執筆者:川井 一之
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