まんじゅう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「まんじゅう」の意味・わかりやすい解説

まんじゅう
まんじゅう / 饅頭

小麦粉、米粉、そば粉など、粉類の皮で各種の餡(あん)を包んで蒸したもので、蒸し菓子の代表。蒸し上がりの皮をふっくらさせるため、ヤマノイモふくれを応用した薯蕷(じょよ)まんじゅうや、甘酒の絞り汁を加えて酒素(しゅそ)の発酵作用を利用した酒(さか)まんじゅうに大別されるが、このほか全国温泉地などにみられる膨剤を使った大衆的なまんじゅうもある。薯蕷まんじゅうはまた薬(やく)まんじゅうともよばれた。ヤマノイモは不老強精に卓効があり、山薬と称したところから薬まんじゅうの名が生まれた。まんじゅうは下側を平らに、上部を丸く形づけて蒸し上げるが、上部も平らにして小判形にしたものや、こんもりと盛り塩をしたように腰高につくるものもある。腰高まんじゅうは職人の技術も優れていなければならないので、まんじゅうとしての格式が高い。

 まんじゅうの起源は、中国の三国時代に蜀漢(しょくかん)(蜀地方を中心に劉備(りゅうび)の建てた国。国号は漢)の丞相(じょうしょう)となった諸葛孔明(しょかつこうめい)(181―234)が南征したとき、人間を殺してその首を神に供えれば戦いは有利になるとの進言を退け、小麦粉を練った皮で羊と豚の肉をくるみ、人頭をかたどって蒸したものを捧(ささ)げたのが始まりという。これに類似したものは、奈良時代に日本にもたらされた唐菓子(とうがし)類のうちの、餛飩(こんとん)(小麦粉を水でこね、その中に細かく刻んだ肉を包み、丸めて蒸したもの)にみることができる。いわば今日の中華肉まんじゅうの姿である。また『吾妻鏡(あづまかがみ)』の建久(けんきゅう)3年(1192)11月29日の項に、五十日百日(いかももか)のお祝いに「十字」を贈ったとある。この十字は蒸餅(じょうへい)、つまりまんじゅうの異称である。表面に十の字の焼き印を押したのでこの名があるとされるが、当初はまんじゅうの皮が無残に裂けるのを防ぐため、十字の切れ目を入れたものと考えられる。

 その後、1242年(仁治3)に中国宋(そう)から帰国した聖一(しょういち)国師(円爾(えんに)弁円)が、博多(はかた)で粟波(あわなみ)吉右衛門に酒まんじゅうの仕法を伝授したという話もある。しかし酒まんじゅうが世に出るのは1461年(寛正2)の、本の字まんじゅう(駿河(するが)屋)以降で、14世紀の中ごろに元(げん)から亡命した林浄因(りんじょういん)のもたらした薯蕷まんじゅうが、一足早く名声を得ている。このまんじゅうの出現が、日本での菓子史の事実上の始まりともみられるのは、それまでの菓子が主食との判別がつきにくい性格であったことや、十字とよばれたもの、あるいは伝来当初の酒まんじゅうが、それほどに豪華な菓子ではなかったからであろう。林浄因の一族は林(はやし)氏塩瀬を名のり、この菓子司の一族から『節用集』を著し、俗に饅頭屋宗二といわれる学者や、名僧を輩出したほか、塩瀬羽二重(はぶたえ)や塩瀬袱紗(ふくさ)なども世に出し、室町以降の茶道の興隆とともに塩瀬まんじゅうの地位を不動のものとした。一方、酒まんじゅう系も本の字まんじゅうに続いて、1635年(寛永12)に黒川円仲が御所に献上した酒まんじゅうをもって高名になった。これが虎屋(とらや)の酒まんじゅうであり、以後、塩瀬の薯蕷まんじゅうとともに、格式あるまんじゅうとして今日まで名声を二分してきた。

 餛飩に始まる日本のまんじゅうは、室町時代までは菜まんじゅうと餡まんじゅうの2種類があった。しかし肉食禁忌の思想はいつしか中華肉まんじゅう的な菜まんじゅうを衰退させ、江戸時代になると中国船の入る長崎以外ではみられなくなった。今日の中華まんじゅうは明治維新後であるが、長野県の郷土菓子「おやき」にのみ、中世の菜まんじゅうのおもかげをうかがうことができる。なお、有名まんじゅうは枚挙できぬほど数多いが、薯蕷系では塩瀬のほか、東京都新宿の花園饅頭、長野県木曽(きそ)のそばまんじゅう、鹿児島の軽羹(かるかん)、酒素系では虎屋、駿河屋のほか、名古屋の納屋橋(なやばし)饅頭、岐阜県大垣の金蝶(きんちょう)饅頭、岡山の大手まんぢう、群馬の焼きまんじゅうなどがある。また変わりまんじゅうには、塩味まんじゅう、葛(くず)まんじゅう、唐(とう)まんじゅう、栗(くり)まんじゅう、月餅(げっぺい)がある。

[沢 史生]


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