ロシア・ソ連邦の作家,批評家。ユダヤ人を父,ドイツ系ロシア人を母とする家庭に生まれる。ペテルブルグ大学在学中に,〈オポヤーズ(詩的言語研究会)〉を結成,ロシア・フォルマリズムの批評運動の中心として,未来派から〈LEF(レフ)(芸術左翼戦線)〉に至る前衛芸術運動と同伴者文学に強い影響を与えた。詩的言語と日常言語の区別,意識の自動化と規範の格上げ,芸術の方法としての〈オストラネーニエ(異化,非日常化)〉の理論は,現代の構造主義,記号学の基礎をなすものである。1910年代から20年代にかけて活躍,スターリン時代には〈形式主義者〉として批判され,不遇であったが,スターリン批判後,精力的に文章を発表した。《散文の理論》(1925),《マヤコフスキー論》(1940),《ドストエフスキー論》(1957),《自伝》(1966)ほか多数の著作がある。
執筆者:水野 忠夫
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ロシアの批評家。父がユダヤ人、母がドイツ系ロシア人の家庭に生まれる。ペテルブルグ大学在学中に「詩的言語研究会(オポヤーズ)」を結成、ロシア・フォルマリズムの批評運動の中心メンバーとして、未来派をはじめとする前衛芸術運動と同伴者文学に強い影響を与えた。詩的言語と日常言語の区別、意識の自動化と規範の格上げ、芸術の方法としての「異化」理論は、現代の構造主義、記号論の基礎をなすものである。スターリン時代は不遇であったが「雪どけ」以降、精力的に活躍した。『散文の理論』(1925)、『マヤコフスキー論』(1940)、『ドストエフスキー論』(1957)、『自伝』(1966)ほか多数の著作がある。
[水野忠夫]
『水野忠夫訳『散文の理論』(1971・せりか書房)』▽『水野忠夫訳『ドストエフスキー論――肯定と否定』(1974・勁草書房)』▽『水野忠夫訳『革命のペテルブルグ(自伝)』(1972・晶文社)』
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…1916年ごろロシアのペトログラードで成立した〈詩的言語研究会〉のことで,詩学と言語学を根底に置くロシア・フォルマリズムの批評運動の一翼を担ったグループ。V.B.シクロフスキー,B.M.エイヘンバウム,Yu.N.トゥイニャーノフ,ヤクビンスキーL.P.Yakubinskii(1892‐1945),ポリワーノフE.D.Polivanov(1891‐1938)らが参加。未来派の芸術運動と関連をもちつつ,文学作品を文学以外の要素に還元する素材としていた従来の批評を拒否して文学の自律性を主張し,〈文学の科学〉の確立を志向し,文学作品の主題構成や文体や構造を分析し,言語表現の方法の面から批評を行おうとした。…
…それは〈芸術のための芸術〉のひとつとしての文学を正当化するための根拠を,理論的に明らかにしようとする試みであったと考えられる。この問題に対して,文芸批評家のV.B.シクロフスキーは《散文の理論》(1925)の中で,〈方法としての芸術〉という考え方を提唱した。彼によれば,文学を文学たらしめているのは,作品の中に表現されている思想内容ではなくて,そこで使われている特徴的な手法である。…
…〈文学ではなくて,文学性,つまりある作品をして文学作品たらしめているもの〉こそ文学研究の対象とすべきであると主張した。おもなメンバーとしては,1915年に設立されたモスクワ言語学サークルのヤコブソン,ボガトゥイリョフP.G.Bogatyryov(1893‐1971),1916年に設立されたオポヤーズ(詩的言語研究会)のシクロフスキー,エイヘンバウム,トマシェフスキー,トゥイニャーノフらがあげられる。彼らは,それまでの文学研究が文化史や社会史,あるいは心理学や哲学に依拠していることを批判するとともに,文学作品を自立した言語世界としてとらえ,言語表現の方法と構造の面から文学作品を解明しようとした。…
※「シクロフスキー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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