1904-05年の冬,シナイ半島の古代鉱山跡セラービート・エルハーデムで発見された,原シナイ碑文と呼ばれる数十の短い碑文群に用いられる文字。イギリスのエジプト学者ガーディナーA.H.Gardinerは1916年の論文で,この文字がエジプト聖刻文字(ヒエログリフ)に似た線文字であることから,エジプト聖刻文字と北西セム文字(いわゆる〈フェニキアのアルファベット〉)の中間段階に位置する単音文字と考え,その一部の解読の結果を発表した。のちオールブライトW.F.Albrightは1966年の論文で,23個の子音文字を確認,碑文の大部分を解読した。この言語は前2千年紀前半のカナン語(セム語族)の一方言で,前1500年ころのものと推定されるこれら碑文の内容は,当時の鉱山労働者が,隣接する神殿に祭られたエジプトの女神ハトホルにささげた奉納文である,といわれる。
執筆者:松田 伊作
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…文字の配列順序は,前14世紀の北西セム語であるウガリト語の楔形文字土板の中に発見された文字表における順序がこの通りであることから,すでに前2千年紀中ごろには定着していたことが推定される。北西セム文字がセム人の独創であるのか,それとも他の文字体系からの発展であるのかについては,説の分かれるところであるが,前18世紀ころに作られたと考えられるシナイ文字を経て古代エジプトのヒエログリフにさかのぼるという説も,考慮に値しよう。すなわちヒエログリフが700個以上の象形音節文字から成るのに対し,シナイ文字は象形文字の面影を残しながらも,その数30に満たぬ子音文字であって,各字形の表す物が,それに対応する北西セム文字の各名称の示す物と一致する場合が多いのである。…
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