シュテルン=ゲルラハの実験(読み)シュテルンゲルラハのじっけん(英語表記)Stern-Gerlach's experiment

改訂新版 世界大百科事典 の解説

シュテルン=ゲルラハの実験 (シュテルンゲルラハのじっけん)
Stern-Gerlach's experiment

磁場の中を運動する荷電粒子について,その角運動量ベクトルは磁場方向成分が特定のとびとびの値のどれかになるような方向しかとらないこと(方向量子化)を証明した最初の実験。1921年,ドイツのO.シュテルンゲルラハWalter Gerlach(1889-1979)は加熱した炉から噴出する銀原子スリットで絞って細いビームとし,下から上に向かい急激に強さを増す磁場を通したところ,ビームは上下の2方向に截然と分裂した。それはビームをガラス板で受けたとき上下に分かれた2ヵ所に銀原子が付着し,中間にはつかなかったことから知られた(図1)。

 銀原子の基底状態における電子の角運動量はスピンのみで,大きさがħ/2であって磁場方向の成分は+ħ/2か-ħ/2のいずれかとなる(ħはプランク定数を2πで割ったもの)。電子は小さい磁石であり,前者の場合そのN極は下,S極は上を向くから,磁場の不均一のため銀原子には差引き下向きの力が働いて,この銀原子の道筋は下に曲がる。後者の銀原子の道筋は上に曲がる。こうして銀原子のビームは2方向に分裂するというのが現代の理解である。実験の当時はまだスピンは発見されていなかった。彼らはA.ゾンマーフェルトとA.ランデが提出していた〈原子の磁気的な芯〉の方向量子化という誤った理論に基づいて実験を行い,解釈もしたのだった。空間量子化の考えにはA.アインシュタインとP.エーレンフェストが強く反対した。
執筆者:


出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 の解説

シュテルン=ゲルラハの実験
シュテルン=ゲルラハのじっけん
Stern-Gerlach's experiment

磁場の中で原子の方向量子化が起こることを示した実験で,1922年に O.シュテルンと W.ゲルラハ共同で行なった。真空中で銀を蒸発させ,スリットを通して原子線をつくり,これに垂直な方向に不均一な磁場をかけると,原子線が 2本に分かれることが観察される。これは,原子の磁気モーメントと磁場の勾配の間に力が働くためである。つまり,銀の基底状態 2S1/2 では軌道角運動量が 0で全角運動量 J が 1/2 であり,Jz 方向 (磁場の方向) への成分が 1/2 と -1/2 に量子化されていて,働く力が違っていることを示している。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android