第一級アミンRNH2を亜硝酸塩(通常,亜硝酸ナトリウムNaNO2を用いる)と反応させて,ジアゾニウム塩RN2⁺を合成する反応(式(1))。
RNH2+NaNO2+2HX─→RN2⁺X⁻+NaX+2H2O ……(1)
(X=Cl,HSO4,NO3,ClO4,BF4,PF6など)
1858年グリースJ.P.Griessによって発見。Rが脂肪族アルキル基の場合,ジアゾニウム塩は不安定ですぐに分解してしまうが,Rが芳香環(ベンゼン環やナフタレン環など)だと共鳴効果により安定化されているので,室温程度まで安定に存在するものも多い。これらの塩は室温でも単離できるものが多いが,単離した固体のジアゾニウム塩は不安定で,放置すると分解してしまう。分解しやすさは陰イオンX⁻の種類によっても影響を受け,HSO4⁻<Cl⁻<NO3⁻<ClO4⁻の順に安定になるといわれている。太陽光にあてたり加熱すると,窒素を発して分解し,急激に熱したり,大量のものを乾燥状態におくと爆発を起こすので危険である。ジアゾニウム塩はさまざまな有機合成反応に利用され,きわめて有用な合成中間体として,染料合成をはじめ,工業的にも盛んに利用されている。ジアゾニウム塩に銅塩を作用させて種々の芳香族化合物を合成する反応はザントマイヤー反応として工業的にも重要である。また,シーマン反応Schiemann reactionと呼ばれる反応では,式(2)に示すようにジアゾニウム塩のテトラフルオロホウ酸塩を加熱してフルオロベンゼンが好収率で得られる。
芳香族ジアゾニウム塩の反応として工業的にも重要なのはジアゾカップリングで,染料合成反応として古くから使用されている反応である。この反応は,芳香族ジアゾニウム塩が窒素の損失なしに,他の芳香族化合物分子を求電子的に攻撃する反応である。(式(3))。
この反応は攻撃を受ける分子の置換基Yが強い電子供与基(電子を押し出して芳香環を電子豊富にする性質をもった置換基)でなければ起こらない。反応条件は通常,0℃,pH=6~10の範囲が適当で,アミンとの反応では中性付近,フェノールとの反応ではアルカリ性で行うと反応が速く進行する。N,N-ジメチルアニリン(Y=N(CH3)2)を使った場合,(3)式の反応で得られる化合物は黄色,2-ナフトールとのカップリング生成物はだいだい色になる。このほかにも種々の置換基や芳香環を使うことにより,さまざまな色素を合成することができる。
執筆者:友田 修司
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
芳香族第一アミンを亜硝酸と反応させてジアゾニウム塩をつくる反応をいう。この反応をアニリンを例にとって示すと、次式のようになり、ベンゼンジアゾニウム塩を生成する。
この反応は1858年J・P・グリースにより発見され、この反応により生成するベンゼンジアゾニウム塩が、ジアゾカップリング反応、ザンドマイヤー反応などに広く利用されているので、有機合成化学においてきわめて重要である( )。この反応はアニリンだけでなく、一般に芳香族第一アミンで広くみられる。
実際のジアゾ化反応は、芳香族第一アミンを希塩酸などの無機酸の薄い水溶液に溶かして、氷冷しながら、亜硝酸ナトリウムの水溶液を加えていくという操作で行う。この際に酸を過剰に加えておかないと、ジアゾアミノ化合物を生成する副反応がおこる。反応を低温において行うのは、生成したジアゾニウム塩が次の反応式により窒素を放出して分解するのを防止するためである。
[廣田 穰]
芳香族第一級アミンの酸性水溶液に,低温で亜硝酸ナトリウムを反応させ,ジアゾニウム塩をつくる反応.
ArNH2 + NO2- + 2H+ → ArN2+ + 2H2O
(Arはアリール基)
用いる酸が少ないと,ジアゾアミノ化合物を副生し,また温度が高いとジアゾニウム塩が分解する.ニトロシル化合物または亜硝酸アルキルを用いてジアゾ化する場合もある.脂肪族第一級アミンについても同様の条件でジアゾ化が起こるが,きわめて不安定であるため窒素を放って分解し,対応するカルボカチオンを中間体とする生成物を与える.[別用語参照]ジアゾ化合物,ジアゾ反応
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
… 芳香族第一アミンから芳香族ジアゾニウム塩をつくる反応に亜硝酸が使われている。 この反応はジアゾ化と呼ばれ,反応性の高いジアゾニウム塩から多くの誘導体を合成することができるため,有機化学では非常に重要な反応である。【漆山 秋雄】。…
※「ジアゾ化」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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