ジアルジア症(ランブル鞭毛虫症)

内科学 第10版 の解説

ジアルジア症(ランブル鞭毛虫症)(原虫疾患)

定義
 ランブル鞭毛虫(Giardia lamblia,Giardia intestinalisともいう)による消化器感染症である.原虫は主として十二指腸など上部消化管の粘膜に接着し寄生し,ヒト並びに動物に下痢を起こす人獣共通感染症(zoonosis)である.
原因・病因
 嫌気的・微好気的環境に生育する原虫で,生活環は栄養型と囊子から形成される.栄養型はヒト・動物の十二指腸から小腸上部の粘膜,さらに胆管胆囊上皮に吸着して寄生し,これが下痢,胆管・胆囊炎の病因となる.栄養型は左右対称の洋梨型をしており,長径15~17 μm,短径5~7 μmで,胞体の上半部の前側は吸着盤(sucking disc)を形成する.核は左右対象に同一ゲノムをもつ1対が存在する.4対8本の鞭毛をもつ.下半部には副基体(parabasal body, median body)がある.囊子は楕円形で長径8~12 μm,短径5~8 μmで,成熟囊子は4核を有する.感染は成熟囊子の経口摂取による.栄養型から囊子への細胞分化は小腸上部で起こる.
疫学
 世界中で最もよくみられる腸管寄生性原虫で,熱帯亜熱帯を中心に地域によっては感染率は20~30%にも達する.感染症法では赤痢アメーバクリプトスポリジウムとともに届出を義務づけられた五類に分類されている.わが国での届出数はきわめて少ないが,米国では年間250万人以上の感染があるとされている.先進諸国では旅行者下痢症(traveler’s diarrhea)として重要である.感染,発症とも幼小児の感受性が高い.感染には囊子に汚染した河川・プールなどを介した水系感染が重要である.また,MSM,知的障害者間での感染にも留意する必要がある.最近glutamate dehydrogenase,β-giardin,triose phosphate isomeraseなどの遺伝子の多型性からこの原虫の下位集団(assemblage A〜G)が分類され,宿主特異性との関連が検討されている.
病理・病態
 原虫が吸着している粘膜下には炎症細胞浸潤,微絨毛の短小化・脱落,粘膜上皮細胞の脱落・成熟阻害がみられる.成人,および免疫機能が正常な人が感染した場合,多くの場合無症状のまま自然寛解する.先天性・後天性の免疫不全時,特に分泌性IgAやIgM欠損のときに劇症化する.
臨床症状
 潜伏期は1~3週間である.主症状は上腹部痛,軟便・脂肪便を含む下痢,食欲不振,腹部不快感,膨満感である.感染が遷延すると吸収不良症候群(malabsorption syndrome)を起こし,小児の発育不良の原因となる.また,ときに胆囊炎,胆管炎を起こす.
診断・鑑別診断
 診断は,顕微鏡観察により,下痢便中の運動性の栄養型および囊子を検出する.有形便では囊子を検出する.ホルマリン-エーテル法など集囊子法,ヨード染色を併用すると囊子の判定が容易になる.糞便検査は日を変えて少なくとも3回行う.抗原捕捉ELISAや蛍光抗体法を用いた特異抗原検出によるキットが市販されている.また,PCRと核酸配列による種の同定と遺伝子型別が行われている.小児の下痢症はどれも鑑別診断の対象となるが,渡航歴や下痢便の性状などを鑑別の一助とする.
治療
 第一選択薬としては赤痢アメーバ症と同様に,メトロニダゾールあるいはチニダゾールを使用する.メトロニダゾールは成人には750 mg/日,分3,10日経口投与する.チニダゾールは2000 mg/日,分1,10日経口投与する.
予防
 赤痢アメーバ症に準ずる.[野崎智義]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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