改訂新版 世界大百科事典 「ジルブラース物語」の意味・わかりやすい解説
ジル・ブラース物語 (ジルブラースものがたり)
Histoire de Gil Blas de Santillane
フランスの小説家ルサージュの傑作。1715,24,35年刊。当時流行のスペインの悪漢小説の体裁をとって書かれた長編物語。スペインのサンティリアーナ出身の若者ジル・ブラースが,生来の何ものにもめげぬ旺盛な生活力と楽天主義とをもって一旗挙げるために世の中を遍歴し,さんざんな目にも出会うが,そのつど経験をいかして賢くなり,また,根は優しい性格から人にも好かれ,ついには立身出世するという筋立てである。描写において,17世紀のスペインとは表向き,実は作者の生きた18世紀中葉のフランス社会をみごとに活写し,かつその欠陥を風刺している。ただし作者の温良な性格もあって,風刺にも破壊的なしんらつさはない。代りに人間の欠陥をユーモラスに包み込み,ひとの振りみてわが振り直せ式の健康な道義感があり,これが主人公ジルを教養小説の精神をそなえた登場人物としている。近代ヨーロッパ市民小説の出発点に位する重要な作品である。
執筆者:西本 晃二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報