イギリスのラファエル前派の詩人,評論家。オックスフォード大学中退後,ギリシア古典劇の対話法の詩劇《アタランタ》(1865)を発表,たちまち時代のアイドルとなった。その妖しい韻律美と異教精神は,《詩と民謡》(1865)で開花し,ビクトリア朝モラルへの反抗,キリスト教批判,エロティシズムで,熱狂的な反響をひきおこした。〈泥沼の神秘のバラ,わが苦悩の乙女よ〉とうたう〈ドローレス〉は,詩人がマゾ的に仕えた宿命の女だった。《夜明けのうた》(1871)では,共和制をたたえ,《詩と民謡》第2集(1878)で,華麗な技巧のさえをみせたが,メアリー女王の三部作の史劇や《ライオネスのトリストラム》(1882)には,もはや衝撃的な魅力はなかった。W.ブレーク,C.ブロンテ論もあるが,本領は韻律の魔術師としての技巧が発揮されたその抒情詩にあった。晩年は放埒な生活のため精神的にまいり,友人ワッツ・ダントンのもとに預けられキリスト教の再教育を受けたが,昔の覇気を失い生涯をとじた。
執筆者:松浦 暢
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イギリスの詩人。オックスフォード大学在学中から華麗な詩才をうたわれ、年を追って異教的耽美(たんび)主義の傾向を強めた。ギリシア悲劇風の劇詩『カリュドンのアタランタ』(1865)で文名を確立し、独自の詩風は群を抜いていたが、ビクトリア王朝期の道徳主義派から激しい非難を浴びた。イギリス世紀末文学の強力な代表者。
[川崎寿彦]
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…作品の価値はそこに盛られた思想あるいはメッセージではなく形態と色彩の美にある,と主張する。イギリスの詩人スウィンバーンがA.J.ムーアの絵《アザレア》(1868)を〈この絵の意味は美そのものだ。存在するということだけが,この絵の存在理由だ〉と絶賛した言葉が,唯美主義を端的に示している。…
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