スリット・ドラム(読み)すりっとどらむ(その他表記)slit-drum

日本大百科全書(ニッポニカ) 「スリット・ドラム」の意味・わかりやすい解説

スリット・ドラム
すりっとどらむ
slit-drum

木や竹の表面に細長いスリット(溝)をあけ、内部を空洞にした筒状ないし容器状の体鳴楽器で、木の棒などで打奏する。大きさは全長約4メートルの大型のものからウッドブロックのような小型のものまで種々ある。分布地域も広く、東アジア東南アジア、中西部アフリカメラネシアポリネシア、メキシコなど広範囲に及んでいる。

 東アジア諸国およびベトナムには、魚をかたどった仏教儀礼用の球状ウッドブロック(日本の木魚など)と、器楽合奏などに用いられる木製または竹製の円筒型の2種類がある。インドネシアのバリ島では、各寺院の高楼に通常2本の円筒型スリット・ドラムが縦に吊(つ)るされており、村人招集する合図に用いられている。

 中西部アフリカの音調言語が用いられている地域では、スリットの両側を異なる厚さにしていくつかの音高を出せるようにしたものがみられる。これで発話言語の高低を模倣してメッセージ伝達が行われる。

 メラネシアでは、パプア・ニューギニア北部からビスマルク諸島ソロモン諸島バヌアツフィジーに至る広範域に分布している。いずれも全長2~4メートルの大きな円筒型で、多くは先端に動物や霊の彫刻が施されている。信号打奏には普通1台だけが使われ、1~2本のスティックで個人や集団に割り当てられた特定リズムを打奏する。また、種々の祭儀では、大きさの異なる複数のスリット・ドラムにより複雑なポリリズムが奏される。ニューギニア島北部では2台、マヌス島では5~7台、ソロモン諸島では3~12台といった組合せがみられる。これらはほとんど横置きして演奏されるが、バヌアツには地面に直立させて置く大型のものがあり、所有者の権威を表すものとして社会的に高く評価されている。

 ポリネシアでは一般に教会への招集や伝統舞踊の伴奏に用いられる。とくに西ポリネシアに分布する舟型のものはつねに一対で演奏され、中央ポリネシアには地面に縦に置き、演奏者も座って打奏する小型のものもある。

[山田陽一]


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改訂新版 世界大百科事典 「スリット・ドラム」の意味・わかりやすい解説

スリット・ドラム
slit-dram

木の幹または丸太を,細い割れ目を残し内部を空洞にくりぬいた打楽器。割れ目太鼓と呼ばれる。表面には動物や魚,ワニ等の彫刻がほどこされている場合が多い。体鳴楽器に属し,手で打ったり,棒で打つ,または突くなどして奏する。打つ場所によって異なる音が出るように作られたものもある。最大のものは,コロンビアのウイトト族の間に見られる儀式用の楽器で,長さが10mにも及ぶ。東南アジアでは竹を用いた小型携帯用のものもあり,歴史的には,初期の大型のものからしだいに小型のものへと発展したと考えられている。木魚や,オーケストラで用いられるウッド・ブロック(木鐘)もスリット・ドラムの一種である。オセアニアや南アメリカでは,水神や月と結びついた宗教的ニュアンスが強く,アフリカでは部落間の通信手段に用いられている。
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百科事典マイペディア 「スリット・ドラム」の意味・わかりやすい解説

スリット・ドラム

木材をくり抜き,側面にスリット(割れ目)を入れた体鳴楽器。割れ目太鼓とも。打奏。アフリカのものの多くは割れ目の両側(リップ)の厚さを変えて,最低2種類の音高を出す。音調言語を話す地域では,この音高の違いを利用して,メッセージを伝達する。ナイジェリアのイボ人のものは多様。オセアニアでは,長短の拍を任意に連続させて信号のコードを構成。南北アメリカ,アジアにも存在。オーケストラで用いるウッド・ブロックもこのタイプ。
→関連項目トーキング・ドラム木魚

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世界大百科事典(旧版)内のスリット・ドラムの言及

【オセアニア】より


[楽器]
 大きな島の多いメラネシアでは比較的楽器の種類が多く,その一部がミクロネシアとポリネシアに流出・導入されたと推察されている。たとえば,オセアニアを代表するスリット・ドラム(割れ目太鼓)はミクロネシアを除いてほぼ全域で大小さまざまのものが分布しており,遠くへの信号発信具として(セピック川流域のガラム)あるいは舞踊伴奏のリズム楽器として(タヒチのトーエレ)活用されている。膜鳴楽器としての太鼓は,メラネシアとミクロネシア東部で筒形ないし砂時計形の片面太鼓を手でかかえて奏するのに対し,ポリネシアでは鍋形ないし筒形の片面締太鼓を床に立てて奏する違いが目立つ。…

【楽器】より


【起源と発生史】
 音楽の起源に対しては,言語起源説,労働起源説,模倣起源説,呪術起源説などがあるが,これらの諸説は楽器の起源にもかかわっているとみられる。 言語の代りに楽器によって特定の通信文を伝達したり物語を語ったりする例は,現在でもオセアニアのスリット・ドラム(割れ目太鼓)やアフリカのトーキング・ドラム(太鼓話法)などにみられる。そのもっとも単純な形態は時刻や非常事態などを鐘などによって告げ知らせるものである。…

【ワ族】より

…父系外婚氏族制をもつ。各集落にはスリット・ドラム(割目太鼓。普通は1対)があり,信号用に用いられるが,山から太鼓を運び込むのは重要な儀礼である。…

※「スリット・ドラム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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