イスラム教の多数派をさし、シーア派と対比して用いられる呼称。スンナ派ともいう。スンニーはアラビア語のスンナ(範例)の形容詞形。彼らは「スンナと共同体の民」と自らをよぶが、その意味はムスリム共同体全体に伝えられた範例に従う者の意である。
[鎌田 繁]
預言者ムハンマド(マホメット)の死後、アブー・バクル、ウマル、ウスマーン、アリーが後継者(カリフ)として選任されたが、アリーのみが正当な後継者であると主張する一部の者を除いて、大多数の信徒はその4人を「正統カリフ」として承認した。この多数派はその後のウマイヤ朝、アッバース朝のカリフをも同様に認め、現実のイスラム世界の歴史的展開をそのまま承認した。これを基本的立場として10世紀ころまでにシーア派、ハーリジー派などの極端派に対処する過程で徐々にその思想を形成していったのがスンニー派である。
[鎌田 繁]
スンニー派の基調は、メディナにおける初期のムスリム共同体の信仰を特徴づけていた実践的、非思弁的な伝統主義にある。シーア派では、イマーム(教主)を通して伝承された預言者の言行(ハディース)がイマーム自身の言行とともにスンナとされ、イマームに宗教的権威が集束する。これに対しスンニー派では、正統四カリフをはじめとする初代のムスリムたちである「教友たち」(サハーバ)によって伝承された預言者の言行が共同体全体の合意(イジュマー)によって確定され、規範性をもつスンナとなる。これは宗教的権威が共同体全体の合意に体現していると解釈できる。このスンナは具体的には、ブハーリー(810―870)、ムスリム(817/821―875)ら6人の学者が編んだ「六書」として尊重されている六つのハディース集のなかに示される。イスラム法の個々の点の解釈について、信徒はスンニー派の公認する四学派、ハナフィー学派、マーリキー学派、シャーフィイー学派、ハンバリー学派のどれかに従うものとされている。またスンニー派の神学派としては、アシュアリーを祖とするアシュアリー派とマートゥリーディーを祖とするマートゥリーディー派とが存在し、時の経過とともに思弁的傾向を深めていった。しかしつねに伝統主義的な陣営が強い影響力を行使し続けてきた。近代におけるワッハーブ運動やサラフィーヤの運動はそのよい例である。
[鎌田 繁]
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…シーア派とともにイスラムを二分する一派。スンニーSunnī派とも呼ばれる。イスラム共同体内で圧倒的多数を占めるため,しばしば〈正統派〉と呼ばれるが,これはあくまでもスンナ派側からみた場合の呼称である。正式には〈スンナと共同体の民ahl al‐sunna wal‐jamā‘a〉といわれる。その意味は,イスラム共同体が全体として受け入れてきた預言者のスンナ(慣行,範例)に従う人々ということである。イスラムにおいてスンナといえば,それは預言者ムハンマドのスンナのことであるが,それを具体的にどのようにして知るかで意見が分かれる。…
※「スンニー派」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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