日本大百科全書(ニッポニカ) 「イジュマー」の意味・わかりやすい解説
イジュマー
いじゅまー
Ijmā‘
イスラム法の四つの主要法源の一つで、「合意」を意味する。第一、第二法源のコーランとスンナ(範例)に適切な法規定のみいだされない事柄や、既存の慣習などをイスラム法がどのように扱うべきかを決定する際によりどころとされるものである。「合意」とは、シャーフィイー以後の古典法理論では、ある一時代の全法学者の合意を意味したが、実際上は法学者を中心とするイスラム共同体(ウンマ)全体の緩やかな合意を意味した。イスラム教には、神と人間の仲介者である聖職者は存在せず、また法規定や教義決定の権能をもつ明確な組織や宗教会議制度も存在しない。したがって「合意」は、ある問題についての反論や異論がやんで、しだいに成立する全般的な合意という形をとる。一度合意された事柄は、新たにイスラム法の内実となる。こうしてイジュマーは、コーラン、スンナに次いで、それらの解釈を最終的に裁可する不可謬(ふかびゅう)な権威となる。イジュマーは、古典法理論の成立以前から地方的な形で重視されていたが、スンニー派イスラム教の特質をもっともよく表す重要な概念となった。イスラム教においては、全ムスリム(イスラム教徒)からなるウンマの神意にかなった存続が重要であるが、イジュマーは端的にそれを表現するものであり、同時にまたそこに根拠をもつものである。4法源のうち、コーラン、スンナは変更不可能であり、キヤース(類推)も前二者に基づく厳密な推論であるのに対し、イジュマーのみが新しい事態に対応するために有効な方法である。そこから近現代において、イスラムの内部からのイスラム法の正しい改革を願うムスリムによって、イジュマーは新たに注目されている。
[小田淑子]