日本大百科全書(ニッポニカ) 「スンナ」の意味・わかりやすい解説
スンナ
すんな
Sunnah
イスラム教において信徒の規範となる古来実践されてきた慣行、範例を意味する。イスラム教以前のジャーヒリーヤ時代(無明時代)のアラビア半島では、先祖代々踏襲してきた習慣や行動様式を遵守するのが重要な徳目と考えられ、その際の行動の範例がスンナと称された。しかしイスラム教の誕生によって信徒の信仰や行動の模範として預言者ムハンマド(マホメット)のことばや行動が中心的意味をもつようになり、スンナとは預言者ムハンマドの示した範例をとくにさすようになった。信徒の信仰や行動の規準は、まず神の啓示である聖典コーランに求められるが、コーランの記述は信徒の複雑多岐にわたる実際の生活を律するには不十分であり、預言者ムハンマドに帰せられることばや行動や暗黙の了解のなかにそれを補う規範をみいだすようになる。スンナはこのようにイスラム法の基礎を形づくる第二の法源となった。この預言者の言行は、預言者と同時代に生きた「教友たち」(サハーバ)によって伝承され、さらに後代に伝えられた。スンナを含むこの預言者の言行は記録され、「ハディース」を形成する。スンニー派とは、このように教友たちを通して共同体のなかに伝承された預言者のスンナに従う者たちの意味である。シーア派のスンナの観念は単に預言者ムハンマドのものだけでなく、彼を継ぐイマーム(教主)たちの言行に体現する範例まで含む。そのほか、イスラム法で人間の行う行為全体を分類する場合に用いる五範疇(はんちゅう)の第二の推奨行為(マンドゥーブ)もスンナとよばれる。
[鎌田 繁]