イスラム以前では,この語は各部族の〈先祖代々踏みならわされてきた道〉の意に用いられていた。コーランでは,〈昔の人々のやり口〉〈慣行〉(8:38,35:43など),〈神の慣行〉(17:77,33:62など)のように,神に遣わされた使徒たちを否認し迫害して受けた神罰に関連して用いられている。イスラムにおける最も典型的な用法は,〈預言者のスンナ〉つまりムハンマドの範例・慣行のことであり,一般に正しい伝統,ムスリムの守るべき正しい基準を意味する。これに反すること,あるいはそこにない新奇なことはビドアbid`a(逸脱,異端)として否定される。この意味におけるスンナは,イスラム法の古典理論にいう四つの法源(ウスール),すなわちコーラン,スンナ,イジュマー(共同体の合意),キヤース(類推)の一つとして,コーランに次ぐ権威をもつ。しかし,スンナ自体は抽象的概念であって,その実質的内容を表すのがハディースと呼ばれるムハンマドの言行についての伝承である。つまり,スンナはハディースという入れ物の中にある。しかし,このようなスンナ=ハディースの考え方が最初から法理論として確定していたわけではない。初めはスンナといえば,それは預言者に直接接することのできたサハーバ(教友)たちにまでさかのぼるとされる各地の〈生きた法的慣行・伝統〉を指す語であった。このような多様な〈生きた法的伝統〉としてのスンナ概念を否定して,口頭で伝えられるハディースの中にこそ預言者の真のスンナがあるとして,シャリーアの古典理論を確立したのが,シャーフィイーである。とはいえ,このことはシャーフィイー以前にムスリムの模倣すべき〈預言者の範例〉としてのスンナの観念がまったくなかったということを意味するものではない。ただそれは〈生きた伝統〉の中に暗黙のうちに存在していたとみるべきであろう。
このほかスンナの語は,イスラム法規範の効力についての五つのカテゴリーの第2のマンドゥーブ(義務ではないが望ましい)と同義に用いられる。
執筆者:中村 廣治郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
イスラム教において信徒の規範となる古来実践されてきた慣行、範例を意味する。イスラム教以前のジャーヒリーヤ時代(無明時代)のアラビア半島では、先祖代々踏襲してきた習慣や行動様式を遵守するのが重要な徳目と考えられ、その際の行動の範例がスンナと称された。しかしイスラム教の誕生によって信徒の信仰や行動の模範として預言者ムハンマド(マホメット)のことばや行動が中心的意味をもつようになり、スンナとは預言者ムハンマドの示した範例をとくにさすようになった。信徒の信仰や行動の規準は、まず神の啓示である聖典コーランに求められるが、コーランの記述は信徒の複雑多岐にわたる実際の生活を律するには不十分であり、預言者ムハンマドに帰せられることばや行動や暗黙の了解のなかにそれを補う規範をみいだすようになる。スンナはこのようにイスラム法の基礎を形づくる第二の法源となった。この預言者の言行は、預言者と同時代に生きた「教友たち」(サハーバ)によって伝承され、さらに後代に伝えられた。スンナを含むこの預言者の言行は記録され、「ハディース」を形成する。スンニー派とは、このように教友たちを通して共同体のなかに伝承された預言者のスンナに従う者たちの意味である。シーア派のスンナの観念は単に預言者ムハンマドのものだけでなく、彼を継ぐイマーム(教主)たちの言行に体現する範例まで含む。そのほか、イスラム法で人間の行う行為全体を分類する場合に用いる五範疇(はんちゅう)の第二の推奨行為(マンドゥーブ)もスンナとよばれる。
[鎌田 繁]
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