改訂新版 世界大百科事典 「ズールー族」の意味・わかりやすい解説
ズールー族 (ズールーぞく)
Zulu
南アフリカ共和国東部に住む大きな部族。人口は568万(1980)に達し,同国のアフリカ人のなかでも最大の勢力をもっている。ズールー語はバントゥー系に属する。牛を飼育しながら南方に移動し,10~14世紀に南アフリカに達したといわれる。
ズールー族の住む地域はズールーランドと呼ばれたが,ズールー族は19世紀初めのシャカ王の時代に強力な軍事力によってズールー王国を形成した。1830年代にケープ植民地のボーア人たちがイギリスの支配に反発して北方への大移動(グレート・トレック)を開始した結果,ズールー族と衝突し,1838年の血の河の戦でズールー王国は手痛い敗北を被った。79年に王国はイギリスに占領され,ズールー族も分割して統治されることになった。その後,南アフリカ共和国のバントゥースタン政策によって,1972年にズールーランドには自治政府が設けられた。これはアパルトヘイトの理論に基づき,黒人と白人とを分離し発展させるというもので,ズールーランドはクワズールーKwazuluと名付けられた。しかし自治政府をもったとはいっても,ズールー族は白人に征服されて以来の苦難から解放されたとはいえない。大部分の男たちは,クワズールーの外の鉱山や都市へ出稼ぎを余儀なくされ,家族から切り離され,低賃金にあえいでいる。都市に住むズールー族労働者は,1930年代そして50年代から60年代にかけての抵抗運動の推進者であり,73年3月にも大規模なストライキを行った。クワズールーのブテレジ首相も南ア共和国政府の政策に批判的な立場をとっている。
クワズールーではズールー族の伝統的な生活様式はなお強く残っている。牛,ヤギ,羊を飼育し,トウモロコシやモロコシを主作物とする農耕を行い,草葺きの伝統的な家屋に居住している。アングリカン・チャーチ,カトリック,独立教会などに属するキリスト教徒が多いが,祖先崇拝に基づく伝統的な宗教も生きており,呪術も病気や不幸の治療に際し用いられている。
執筆者:赤阪 賢
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報