改訂新版 世界大百科事典 「セイヨウヒイラギ」の意味・わかりやすい解説
セイヨウヒイラギ
English holly
Ilex aquifolium L.
モチノキ科の常緑低木で,鋭くとがった歯牙のある硬い葉と赤い実をクリスマスの飾りとする。ときに高さ6mに達し,よく枝分れしてピラミッド形の樹形となる。若枝は無毛。葉は短い柄で互生し,長楕円状卵形,長さ4~8cm,縁は波打ち数個の鋭くとがる三角形の歯牙があるが,老樹ほどそれが少なくなる。雌雄の花は別株につき,5~6月,前年の枝の葉腋(ようえき)に房状に咲く。花は小さくて白く,4~5個の萼片,花片と,雄花ではおしべ,雌花ではめしべと退化雄蕊(ゆうずい)がある。12月,径約6mmの球形の核果が鮮赤色に熟する。イラン以西からヨーロッパ中・南部と北アフリカに分布する。刈込みに耐え,耐寒性もあるので,造園樹,生垣または生花用として広く栽培され,園芸品種も多い。実生または,とくに雌株は挿木や取木で増やす。葉の形から和名にヒイラギを用いるが,モクセイ科で黒紫色果をつける本物のヒイラギとはまったく縁がない。
北アメリカ東・中部でホリーhollyと呼ばれるのは,I.opaca Ait.(英名American holly)で,葉がやや薄く,花は当年枝の葉腋に単生し,果実は暗赤色に熟する。中国産のヒイラギモチI.cornuta Lindl.(一名シナヒイラギ)は3~4mの低木で,葉は四角状長楕円形になり,とくに先端の3個のとげが大きい。雄株にも少し結実する。奄美大島に産するアマミヒイラギモチI.dimorphophylla Koidz.も葉に鋭いとげがある。
執筆者:濱谷 稔夫
民俗,伝承
セイヨウヒイラギはケルト人の聖木で,生木を火にくべたりすることは固く禁じられ,また冬の間も緑を保つこの枝で家の周囲を飾り,森の精霊を迎える風習があった。アーサー王伝説に語られる緑の騎士はこの木を象徴するといわれる。一方,古代ローマにおいてはサトゥルナリア(サトゥルヌスの祭日)にこの木を供え犠牲のロバを殺した。クリスマスにセイヨウヒイラギの緑の葉と赤い実を飾る習慣は,この祭式がキリスト教に採り入れられて生じたといわれる。さらに,十字架上のキリストから落ちた血がこの実を赤く染めたとの伝承もある。冬でも緑濃い木であるところから,永遠の生命の象徴とされ,魔よけや縁起かつぎの対象となった。花言葉は〈家庭円満〉。また老木の葉のとげが丸くなるのは,幹が高く伸びて放牧牛に葉を食い荒らされるおそれがなくなるからだと信じられたことから,〈予見・洞察力〉の象徴となり,花言葉の一つにも加えられている。
執筆者:荒俣 宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報