共同通信ニュース用語解説 「ヤドリギ」の解説
ヤドリギ
他の木の
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ヤドリギ科の半寄生性常緑小低木。高さ50cm前後,大きなものでは1mになることもある。茎は円柱状で緑色,多肉質で二叉(にさ),ときには三叉に分枝を繰り返す。節がふくれ,はっきりしていて節間は長さ5~10cmほど,節に葉を対生する。葉は革質でやや多肉,楕円状倒披針形から倒披針形,長さ3~5cmほど,深緑色,全縁で光沢がある。雌雄異株。花は晩春に頂端の対生する葉間に生じ,無花梗で,雄花は3~5個が,雌花は1~3個ずつつく。小さくて目だたない。果実は晩秋に熟し,球形で透明な感じのある帯黄白色,種子を1個いれ,それをとりまく果肉は粘液質である。代表的な鳥散布型で,鳥が果実を食べるときにくちばしに粘着して運ばれる。また,消化管を通っても粘着性を失わず,寄生木に粘着して発芽する。ケヤキ,エノキ,ムクノキなどのニレ科植物,ミズナラなどのブナ科植物,それにバラ科やクワ科の広葉樹に寄生することが多い。果実が赤く熟すものがあり,アカヤドリギとして区別される。欧米では,セイヨウヤドリギV.album L.(英名common mistletoe,European mistletoe)がクリスマスの飾りに珍重され,その枝の下では女性にキスすることが許される習慣がある。しかし,祭礼での使用の起りはキリスト教以前の神話にもとづくもので,ヤドリギは古くから神聖な植物とされていた。茎葉は血圧降下,利尿作用を有することが知られ,漢方では桑寄生(そうきせい)の名で,強健,腰痛,安産などのために用いられる。また茎葉にはデンプンを含有し,食料欠乏のときに食用にしたり,家畜の飼料に利用される。東北で不作のときに食用にされたひょう餅の原料はヤドリギである。果実や茎葉の粘液からはとりもちが作られ,属の学名もそれにちなむ。
ヤドリギ属Viscum(英名mistletoe)はすべて常緑の半寄生植物で,多数に寄生されると寄生された木は弱り,やがて枯死することがある。旧世界の温暖な地域を中心に約60種ほどが広く分布している。また,このヤドリギに代表されるヤドリギ科は熱帯域に多い半寄生植物の大きな群で,すべて木本性である。裸子植物にも被子植物にも広く寄生する。種子の子葉は葉緑体を有し緑色で,光のある条件下で発芽が始まる光発芽性を有する。世界に36属約1300種が分化していて,日本にはヤドリギのほか,マツグミ,ヒノキバヤドリギ,オオバヤドリギなどを産する。
執筆者:堀田 満
ヤドリギは古代ヨーロッパでは,特にケルト人の宗教的行事に使用された。すなわちケルトの聖職者は,オークの木に寄生しているヤドリギを夏至や冬至の夜などに黄金の鎌で切りとり,村へもち帰って祭壇に安置したという。この習慣は,ヨーロッパにキリスト教が入ってきてからも形を変えて生き延び,現在でもイギリスやフランス等では,クリスマスには市場でヤドリギの枝を買って帰り,室内の飾りとする習慣が残っている。ヤドリギが古くから神聖視されたのは,冬になって宿主である落葉樹のオークが葉を落としているのに反し,宿生しているヤドリギだけは青々とした葉をもち続けており,その結果,いったん葉を落としたオークの木が再生したかのようにみえたからである。北欧神話には,オーディンの息子バルドルが,いったんは悪神ロキによってヤドリギでつくられた矢で射殺されるが,その後生きかえるという話が伝えられているが,これもヤドリギにまつわる死と復活のイメージに関係するものと思われる。
執筆者:山下 正男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ヤドリギ科(APG分類:ビャクダン科)の常緑小低木。ホヤ(寄生)、トビヅタ(飛蔦)ともいう。ケヤキ、エノキ、サクラ、ミズナラその他の落葉広葉樹の樹上に寄生し、このためヤドリギの名がある。よく枝分れして径40~60センチメートルの球形になる。枝は緑色で二又から三又状に多数分枝し、関節があり、乾くとばらばらになる。葉は枝先に対生し、柄がなく、倒披針(とうひしん)形で長さ3~6センチメートル。先はやや丸く、革質で厚く、濃緑色で光沢がない。雌雄異株。2~3月、枝先の葉の間に淡黄色の小花を通常3個ずつ頂生して開く。花被(かひ)は鐘形で4裂し、質が厚い。雄花の雄しべは花糸がなく、葯(やく)は花被裂片につく。雌花には雌しべが1本ある。果実は球形、径約6ミリメートルの液果で、淡黄色の半透明に熟す。果肉は粘りが強く、鳥類によって他樹に運ばれ、粘着して発芽する。北海道から九州、および朝鮮半島、中国に分布する。
品種のアカミヤドリギは果実が橙黄(とうこう)色に熟し、母種のセイヨウヤドリギはヤドリギに似るが、果実は白く熟す。セイヨウヤドリギはヨーロッパからアジア北西部に分布し、ヨーロッパブナ、ポプラなどのほか、果樹のリンゴにも寄生して被害を与える。イギリスではクリスマスのときに果実のついた枝葉を飾りに使う。
なお、ヤドリギに似た生態を示すもので日本に自生する植物には、ほかにオオバヤドリギ、マツグミ、ホザキヤドリギ、ヒノキバヤドリギがある。
[小林義雄 2021年2月17日]
APG分類ではヒノキバヤドリギとヤドリギはビャクダン科とされる。オオバヤドリギ、マツグミ、ホザキヤドリギはオオバヤドリギ科である。
[編集部 2021年2月17日]
落葉した木に着生し常緑を保つヤドリギは、古代の人々にとって驚きであったとみえ、ヨーロッパ各国でセイヨウヤドリギの土着信仰が生じ、儀式に使われた。その諸例はフレーザーの『金枝篇(きんしへん)』で取り上げられている。古代ケルト人のドルイド教では年初の月齢6日の夜、ヨーロッパナラ(オーク)に着生したセイヨウヤドリギを切り落とす神事があった。北欧では冬至の火祭りに光の神バルデルの人形とセイヨウヤドリギを火のなかに投げ、光の新生を願った。常緑のヤドリギを春の女神や光の精の象徴として室内に飾る風習は、クリスマスと結び付き、現代に残る。
日本でもヤドリギは、常緑信仰の対象とされていた。大伴家持(おおとものやかもち)は『万葉集』巻18で、「あしひきの山の木末(こぬれ)のほよ取りて挿頭(かざ)しつらくは千年(ちとせ)寿(ほ)くとそ」と、宴(うたげ)の席で詠んでいる。ほよはヤドリギの古名で、髪に挿し長寿を祈る習俗があったことがわかる。
[湯浅浩史 2021年2月17日]
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