翻訳|solar house
太陽の熱と光を有効に利用するように設計された建築。主として,一戸建住宅を指す場合が多いが,集合住宅,事務所ビル,学校,病院,老人ホーム,体育館,工場など,あらゆる種類の太陽エネルギー利用建築を総称するものといってよい。一般に建築は,窓を通して太陽の熱と光をとり入れているが,これをさらに積極的なくふうによって,採光や集熱・蓄熱などを行い,室内の熱環境,光環境の改善と,それによる電気,ガス,石油などエネルギーの消費節減をはかるものである。
太陽の恵みをなんとか住いに利用しようという試みは,人類が地球上に生活を営むようになって以来のことであるが,太陽熱を積極的に利用して暖房を行うための集熱器の実験は,アメリカでは1911年ころ,アリゾナ州の技術者によって初めて行われ,30年ころに一般に知られるようになったといわれる。日本でソーラーハウスということばが一般に使われるようになったのは,73年秋の第1次オイルショック以後であるが,1950年代に空調技術者柳町政之助が自邸を〈太陽の家〉として建て,太陽熱による冷暖房,給湯を行って,学会などに発表したのが本格的なソーラーハウスとしては日本最初のものであろう。
ソーラーハウスとしての太陽熱利用は,二つの方法に大別される。すなわち窓から室内に直接日射熱をとり入れ,建物自体で蓄・放熱するなど,機械設備を用いずに太陽熱を利用し,室内気候の調整をはかる方法をパッシブシステムと呼び,これに対して屋根などに設置された集熱器で太陽熱を集めて空気や水を暖め,これをファンやポンプなどの動力を用いて各室に運び,室内に設置された放熱器によって放熱させ,室内気候調整を行うシステムをアクティブシステムと呼ぶ。パッシブシステムは大きなガラス窓から日射を室内に導いて室温の上昇をはかり,余分な熱は床,壁,天井などに吸収させて蓄熱し,室温の降下時にその蓄えた熱を室内に放出して室温低下を防ぐ方式である。ごく自然的な利用形態であるが,建物全体の断熱構造化,気密化とともに,大きな開口部に対する夜間の断熱戸の使用,室内の床,壁,天井に蓄熱性を有する材料,すなわち,コンクリート,煉瓦,ブロック,土壁などの重厚な材料の使用など,建物構成部材の適切な組合せが必要である。
アクティブシステムは種々の設備機器を使用して太陽熱の有効利用を行うもので,通常の暖冷房装置との併用が前提となる。太陽エネルギーは,エネルギー源としてはきわめて希薄なものであるから,これを効率よく集めるためには,集熱装置が必要であり,また,定常的にいつでも安定して得られるエネルギーではないので,集めた熱エネルギーを蓄えておくための蓄熱槽が必要である。集め,蓄えられた熱は,暖房の場合にはそのまま水や空気を媒体にして各室に運ばれ,放熱される。温度が不十分な場合には,油やガスや電気によって補助加熱されてから各室に運ばれ,放熱される。冷房の場合には,90℃前後の温水を吸収式冷凍機に供給し,冷水をつくり,各室に供給して冷房を行う。太陽熱によって90℃程度の温水を得るには,高性能の集熱器が必要であるが,例えば,いったん吸収した太陽熱をできるだけ再放出しないような選択吸収膜を吸収面に施したり,蛍光灯を太くしたようなガラス円筒管形の集熱器とし,中を真空にして対流による熱損失を少なくするなどの手法を講ずることによって,100℃以上の高温集熱も可能になる。太陽熱冷房は日射の強い,冷房の必要度の高いときほどシステムも有効に作動するという点で理にかなっており,技術的にも十分可能であるが,現時点では経済性のみならず,省エネルギー性の点からも,従来の冷房システムに比して有利なものとなっていない。一方,年間を通じて利用期間の長い暖房・給湯については,有用な省エネルギー手法として確立されているといえる。
さらに,将来有望視されているのは,太陽電池を用いた太陽光発電システムで,コストダウンが進めば,住宅内の照明,調理,冷暖房など広範囲に利用される可能性を有する。太陽エネルギーとともに,風力,地熱など各種自然エネルギー,調理などの排熱,厨芥(ちゆうかい)物などからのメタンガス,その他あらゆるエネルギーを複合的に利用し,自給自足をはかる家(オートノマスハウス)も考えられている。
執筆者:伊藤 直明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
太陽熱が十分に給湯や暖房に利用できるよう、建物の形態・構造・材料・設備などをくふうした住宅などの建物をいう。1930年ごろシカゴの新聞がガラス張りの住宅をこうよんだのが初めであり、日本では56年(昭和31)柳町政之助が自宅に試みたのが最初である。1973年の石油危機以後技術開発が進み、その後も地球環境問題や燃料費の高騰などから、省エネルギーの建物として注目され、建築数も増えている。ただし、冬季の日照条件など、立地条件がよくないと効率が悪くなる。
[松浦邦男]
屋根や壁に太陽放射の集熱器を備え、ポンプ、ファンなど機械力を用いて蓄熱・放熱させ、給湯・暖冷房を行う方式を機械的(アクティブ)ソーラーハウスとよぶ。一方、周壁の断熱を十分よくし、ガラス窓から太陽放射を取り入れ、れんがなど熱容量の大きい材料の壁や床に直接当てて蓄熱し、機械力を用いず温度差を利用して集めた熱を建物内に分配する方式を自然的(パッシブ)ソーラーハウスとよぶ。
[松浦邦男]
ソーラーハウスの形態は集熱面をどこに使うかで決まる。冬の給湯・暖房を目的とする場合は集熱面を南向きとし、水平面からの傾きをその土地の緯度プラス15度とするのが最適である。屋根そのものを集熱面としたり、バルコニーに設置する。集熱器としては、水や空気を通すパイプのついた金属板をガラスで覆った平板型がもっともよく用いられる。
[松浦邦男]
太陽放射は天候により不安定であるので、集めた熱は蓄熱槽(水式は十分保温した水槽、空気式は砕石槽)に蓄える。蓄熱水槽の上部で熱交換された高温の水を給湯に、中層部分を暖房用の放熱器に回す。余分の熱を長期用の別の地下蓄熱槽に送り込むくふうもある。放熱器のかわりに床暖房パネルを用いることもある。太陽熱冷房にはガス冷蔵庫と同じ原理の吸収式冷凍機を用いるが、高温の熱源が必要であり、また設備費が高く経済的でない。
[松浦邦男]
『木村建一著『ソーラーハウス入門』(1980・オーム社)』▽『日本太陽エネルギー学会編・刊『太陽エネルギー利用ハンドブック』(1985)』
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