改訂新版 世界大百科事典 「タテハモドキ」の意味・わかりやすい解説
タテハモドキ
Precis almana
鱗翅目タテハチョウ科の昆虫。翅の開張は5cm内外。インド以東の熱帯に広く分布する草原性のチョウで,キタテハより大きいが,飛び方や色彩などに似た点がある。日本では南西諸島に産し,以前は本土には迷チョウとして現れることが多かったが,1960年ころから南九州,とくに大隅半島から宮崎県の海岸沿いに北上を続け,現在は土着したとみなされている。タテハ(ヒオドシチョウ)に似て異なるところからつけられた名である。年数回発生し,秋に羽化した成虫が越冬する。秋型は,それ以前に羽化するものとはかなり異なり,翅が角ばり,尾状突起が発達し,表面は濃橙赤色,前・後翅の眼状紋は小さい。夏型は翅が丸く,裏面に眼状紋がよく発達している。雌雄の差はあまりない。幼虫の食草はおもにイワダレソウ(クマツヅラ科)とスズメノトウガラシ(ゴマノハグサ科)で,後者が水田に繁茂すると晩夏~初秋に成虫が大発生することがある。幼虫は黒褐色で体にとげがある。成虫は夏以降に九州西部,四国,本州太平洋岸に迷チョウとして記録されることがある。近似種のアオタテハモドキP.orithyaは少し翅が前後に短い。雄の後翅表面が広く,空色から藍色に輝く。雌雄の差は明りょうで,雌の後翅表面は褐色,まれに緑色のものがある。アジア東部の熱帯に広く分布し,日本では西表島,石垣島に定着している。夏以降は迷チョウとしてよく本土に現れ,九州西岸をはじめ,前種よりはるかに広い範囲で記録されている。年数回の発生。幼虫の食草はおもにキツネノマゴ科の植物。
執筆者:高倉 忠博
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報