日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
ダイオキシン類対策特別措置法
だいおきしんるいたいさくとくべつそちほう
きわめて強い毒性から健康被害が心配されるダイオキシン類への規制措置を盛り込んだ法律(平成11年法律第105号)。1999年(平成11)7月成立、2000年(平成12)1月施行。法律の目的は、ダイオキシン類による環境汚染の防止およびその除去等のため、ダイオキシン類に関する施策の基本とすべき基準を定めるとともに、必要な規制、汚染土壌にかかわる措置等を定めることにより、国民の健康の保護を図ること、が掲げられている。この法律では、ダイオキシン類とは、ポリ塩化ジベンゾ‐パラ‐ジオキシン、ポリ塩化ジベンゾフラン、およびコプラナーポリ塩化ビフェニルの3種類を含んでいる。法律では、施策の基準として耐容1日摂取量(TDI)、大気汚染・水質汚濁(水底の底質の汚染を含む)・土壌汚染に関する環境基準を定めることとしている。また、ダイオキシン類の発生源となる施設を政令で指定し、個別の施設に対する排出ガスおよび排出水に関する排出基準を定めることとなっている。さらに、焼却炉など、ダイオキシン類の発生源となる施設が集中立地している地域において対策の強化が求められていることから、政令でダイオキシン類排出に関する総量規制地域を設定し、地域での総量削減計画を作成、総量規制基準を設定することとなった。そのほか、廃棄物焼却に伴う煤塵(ばいじん)・焼却灰の処理、汚染土壌の除去対策、大気・水質・土壌の汚染状況の調査・測定など、ダイオキシン類に対する総合的対策が盛り込まれた。
この法律は規制を望む国民の声を背景に議員提案され立法化されたが、とくに1999年2月、埼玉県所沢市の汚染状況を取り上げたテレビの報道番組をきっかけに、埼玉県産の野菜価格が暴落、大きな騒ぎになったことも法制定を急がせる要因になったとみられる。
[田中 勝]
排出基準
具体的な基準値としては、耐容1日摂取量が体重1キログラム当り4ピコグラム(ピコは1兆分の1)、大気環境基準(年間平均値)が1立方メートル当り0.6ピコグラム、水質環境基準(年間平均値)が1リットル当り1ピコグラム、土壌汚染に関する環境基準が1グラム当り1000ピコグラムと定められた。また排出基準としては、水質排出基準は1リットル当り10ピコグラム、大気の排出基準は施設の種類や規模によって異なるが、廃棄物焼却炉は火床面積が0.5平方メートル以上、または施設の燃焼能力が1時間当り50キログラム以上のものが特定施設となり、もっとも厳しい基準は新設の1時間当り4トン以上の焼却能力を有する廃棄物焼却炉に適用されるもので、1立方メートル当り0.1ナノグラム(ナノは10億分の1)となっている。
[田中 勝]
ダイオキシン類の測定表示
ダイオキシン類は多種類の化合物からなっており、それぞれの化合物は毒性の強さが異なる。それぞれの毒性の強度の違いは、もっとも毒性が強いとされている2,3,7,8-四塩化ジベンゾダイオキシン(2,3,7,8-TCDD)の毒性を1とした場合の相対的な換算係数(これを毒性等価係数=TEFという)によって評価される。ダイオキシン類の濃度を表示するときには、測定した化合物の濃度にTEFを掛けて2,3,7,8-TCDDの量に換算して表す。これがTEQ(毒性等量)である。たとえば、1,2,3,4,7,8-六塩化ジベンゾダイオキシンの測定濃度が10ピコグラム/Lなら、TEQはTEF0.1(毒性が2,3,7,8-TCDDの10分の1であることを示す)を掛けた1ピコグラムとなり、1pg-TEQ/Lのように表記される。なお、2006年にWHOが係数の見直しを行ったことを受けて施行規則が2007年に改正、TEFの数値が変更された。
環境省の調査によれば日本の環境中のダイオキシン類濃度は減少傾向にあり、大気では1998年度の平均が0.23pg-TEQ/m3であったが、2003年度では0.068pg-TEQ/m3、2008年度では0.036pg-TEQ/m3となっている。
[田中 勝]