日本大百科全書(ニッポニカ) 「環境ホルモン」の意味・わかりやすい解説
環境ホルモン
かんきょうほるもん
正式には「内分泌攪乱化学物質」といい、生活環境中にあり、生物の生殖機能を乱すホルモン作用のある物質をさす。生物界で近年観察されているオスのメス化や生殖行動異常の原因ではないかと疑われている。1996年に出版された警告の書『奪われし未来』が、この問題が注目される発端になった。この本では、魚など動物の世界的な異常現象と、微量なホルモン作用物質であるダイオキシンやPCB(ポリ塩化ビフェニル)、プラスチック材料のビスフェノールAやフタル酸エステル、船底材料のTBTなどとの汚染の関連を示唆するさまざまな研究を結びつけている。現在では約70種の化学物質が環境ホルモンと見なされている。極端な研究者は「環境ホルモンのために人類は滅ぶ」とまで警告している。建設省(現、国土交通省)が1998年、全国の主要河川で八つの環境ホルモンについて調査をしたところ、66%で一つ以上が検出されたという。また、デンマークのスカケベックは人間の精液1ミリリットル中の精子の数が50年間に半減したと報告、世界的に関心が高まり研究が始まっているが、まだ確実な証明はほとんどない。たしかに貝や魚、カエル、ワニなどのオス、メスの混乱現象や異常の一部はTBTや農薬成分の影響と見なされている。しかし、もともと魚はホルモンで性がかわりやすい生物だし、人間の精子数にしても変動が大きく、変化はないとの報告もある。ましてなにが原因かなどはこれからの研究課題である。
[田辺 功]