チャーターリングとアクレディテーション

大学事典 の解説

チャーターリングとアクレディテーション

[概念]

大学の設置に当たっては,高等教育を担当する政府機関からチャーターリング(chartering: 設置認可)を受けるのが一般的であり,当該機関が設置時において大学の名称にふさわしい最低限の基準を満たしているかどうかが審査される。中世ヨーロッパで学者と学生のギルドとして発生した大学は,しだいに皇帝,教皇,国王の勅許状(charter)を得て,自治や特権を認められるようになった。こうした経緯は,現在のチャーターリングという用語に名残を留めている。イギリスの伝統的大学の中には,今もなお勅許状を設置根拠とするものも少なくない。

 国民国家の成立以降,政府が大学に強い統制を及ぼしてきたヨーロッパでは,国家が大学の設置認可に強い権限を持つだけでなく,設置後の大学における教育研究の質保証も担ってきた。これに対し,国家の成立以前に私立大学が発展した歴史を持つアメリカ合衆国では,高等教育機関における教育研究水準の維持向上のために,各大学や専門教育分野の関係者が自主的に設立した団体により,各参加機関の教育研究の質や人的・物的基盤を定期的に評価する仕組みが作られた。これがアクレディテーション(accreditation)と呼ばれるものであり,日本では「適格判定」「基準認定」等と訳される。アクレディテーションのために各団体が定める適格判定基準は,高度な学術機関である大学としての社会的評価にふさわしい教育研究の水準に達しているかどうかの判断に用いられ,大学の質の維持向上に資するものであり,最低限の基準である設置認可基準とは別に考えられる。

[アメリカのアクレディテーション]

アメリカでは州政府に大学の設置認可の権限があるが,州ごとに基準が異なり,必ずしも厳格なものではないとされ,大学としての社会的な認知や学位の通用性を保証するのはアクレディテーションであるという伝統が確立されている。アクレディテーションを行う団体は,機関全体を対象とする機関別アクレディテーション団体と,学部,学科,教育プログラム等を対象とする専門分野別アクレディテーション団体に大別される。機関別アクレディテーション団体には,全米を六つの地域に分けて担当する地域別団体のほか,宗教関連団体,職業関連団体がある。アクレディテーションの仕組みでは,各団体が定める教育研究等の基準を満たしていると判定された大学のみが当該団体の会員として認められ,学問的・社会的な信用・権威を得ることになる。さらにアクレディテーション団体の評価活動の適正性等をチェックするため,大学関係者が設立した高等教育アクレディテーション協議会(アメリカ)(Council for Higher Education Accreditation: CHEA)のほか,連邦政府が定期的に各団体の認証(アメリカ)(recognition)を行っている。

 アクレディテーションは,政府から独立した大学関係者の団体による自主的な取組みとして行われてきたが,現在では1965年高等教育法の下で,連邦教育省の認証を受けた団体からアクレディテーションを得た高等教育機関に在籍していることが連邦政府の奨学金受給要件とされているため,この点で間接的に連邦政府が関与する仕組みとなっている。近年,連邦教育省は,高等教育機関の質の確保や学習成果(ラーニング・アウトカムズ)重視の観点から,アクレディテーション団体に対し,学習成果に関する評価基準を設けるよう求めるなど,アクレディテーションへの関与を強める動きをみせている。また,アクレディテーションについては,大学関係者同士の内輪の評価であって,外部へのアカウンタビリティの点で限界があるという指摘がみられる点にも留意する必要がある。

[日本の状況]

第2次世界大戦前の日本において,旧制大学の設置認可は,最高学府である大学にふさわしい教育研究の水準が求められるものであった。官立大学(日本)については,帝国大学をはじめとする既設校の水準を規範として勅令により設置が定められた。公私立大学については,大学令(日本)(大正7年勅令第388号)や大学規程(日本)(大正8年文部省令第11号)等に基づき,人的にも物的にも厳しい要件が課せられ,文部大臣が勅裁を得て設置認可を行った。これは,大学昇格を目指す私立学校にとって重い負担となった。このような高度な水準と質が大学に求められたため,文部大臣による設置認可は,実質的にアクレディテーションとしての性格をあわせ持っていたとの指摘もある。

 戦後新制大学の発足に当たり,第1次米国教育使節団報告書(昭和21年3月31日)の勧告や連合国軍最高司令官総司令部(GHQ/SCAP)民間情報教育局(CIE)の指導を受けて,大学設立時の設置認可と設立後の質の維持・向上のための日本のアクレディテーションを分離するという大きな方針転換が行われた。公私立大学の設置認可は,学校教育法(昭和22年法律第26号)の規定に基づき文部大臣が行うこととなり,文部大臣は,1948年(昭和23)1月に設けられた大学設置委員会(日本)(現,大学設置・学校法人審議会(日本))に諮問して,設置認可基準に基づく審査を行わせ,相当の理由がない限り,その答申のとおり認可を行うことが慣例となった。また,1947年7月に旧制大学を発起校として自主的アクレディテーション団体である大学基準協会(日本)が設立され,同年12月には会員の資格審査の基準として「大学基準(日本)」を制定した。ところが大学設置委員会でも,設置認可基準として,アクレディテーション基準であるはずの「大学基準」を採用したため,設置認可とアクレディテーションの分離は曖昧になってしまった。

 その後,「大学基準」に関しては,やはり設置認可基準とは性格を異にする上に具体性を欠くなどの問題があったため,文部省では,講和条約締結後の1956年に大学設置の最低基準として大学設置基準(昭和31年文部省令第28号)を制定した。「大学基準」は,大学基準協会の会員審査の基準という本来の姿に戻ったが,アメリカ式のアクレディテーションが日本で定着することはなく,その結果,国による設置認可のみが機能することとなり,設置認可後の質の維持・向上を図る有効な仕組みは十分確立されないままであった。これ以降,私立大学を中心に多くの新制大学が設置を認められ,高等教育の量的拡大,大衆化が進んだが,一方で,飛躍的な拡大は大学の質保証の点で課題を残すことになった。

[今後の質保証に向けた展望

大学の質の維持・向上については,1980年代以降,臨時教育審議会,大学審議会等での検討を経て,大学評価制度の整備により対応が図られている。2002年(平成14)には,学校教育法の改正により,現行の認証評価制度(日本)が導入された(2004年4月施行)。一方で,大学設置基準は,詳細にカリキュラムの枠組みを定めることにより,一定程度の教育内容を維持する役割を果たしてきた面もあるとされるが,1991年に大学審議会答申に基づき,大学の個性化,教育課程の自由化に向けて大綱化された。さらに2003年には,事前規制から事後チェックへという規制改革の動きを受けて,大学設置・学校法人審議会の内規等で定めていた設置認可の審査基準を大幅に簡素化した上で法令上明確化するなど,設置審査の準則化(日本)が行われた。大幅な設置基準の緩和は,大学の活性化等を目指すものであったが,あまりに急激に行われたこともあって,大学の質の低下を危惧する声も上がっている。

 2012年には,当時の田中真紀子文部科学大臣が大学設置・学校法人審議会の答申どおりに大学の設置認可を行うことに一時難色を示したことから,文部科学省の有識者会議における検討を経て,2013年以降,学生確保等に係る審査基準の明確化等の見直しが行われている。大学にふさわしい教育研究の水準の維持・向上のため,さらに実効性のある質保証システムの確立が求められている。
著者: 寺倉憲一

参考文献: 天城勲・慶伊富長編『大学設置基準の研究』東京大学出版会,1977.

参考文献: 喜多村和之『大学評価とはなにか―アクレディテーションの理論と実際』東信堂,1992.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

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