日本大百科全書(ニッポニカ) 「ツノサンゴ」の意味・わかりやすい解説
ツノサンゴ
つのさんご / 角珊瑚
black coral
腔腸(こうちょう)動物門花虫綱六放サンゴ亜綱ツノサンゴ目Antipathariaの海産動物の総称。クロサンゴともよばれる。北緯40度以北に産するものは大西洋に1種あり、南緯40度以南に産するものは太平洋と大西洋にわずかに知られるが、ほかの多くの種は熱帯から温帯にかけて分布し、暖海ほど豊富に産する。
[内田紘臣]
形態
すべて群体をつくり、いろいろな形状の骨軸上を薄い共肉が包み、そのところどころに個虫が分布する。骨軸は黒色で角質、細いものはかなりの弾力性をもち、色も暗褐色であるが、太くなると弾力性がなくなって非常に硬くなり、色も真っ黒になる。すべての種の骨軸上には枝先方向を向いた数縦列の棘(とげ)がある。群体の形状は種によってさまざまで、分岐をしない針金状のもの、数本の主枝に分かれて小枝を欠く箒(ほうき)状のもの、主軸の両側に羽枝を出す羽根状のもの、不規則分岐して枝が互いに癒合して網状となるもの、樹枝状分岐して樹状となるもの、主幹に小枝を分岐させ瓶洗いブラシ状になるものなどがある。骨軸上には薄くゼラチン状の共肉がかぶる。個虫は多くの場合骨軸の一方に1列に配列するが、ネジレカラマツやムチカラマツのCirripathes属のみは骨軸半面に個虫が数列をなして配列する。個虫の胃腔(いこう)は1個体ごとに独立しており、隣接する個虫の胃腔とはつながらない。個虫は骨軸上にくっついた形となり、骨軸には個虫を収める穴はない。個虫は体壁が滑らかで、6本の円筒形の触手をもつ。触手は骨軸に直交する2本と、その先方に2本、根側に2本と配列する。触手には刺胞のかたまりが点在し、そこが不透明な点となって見えるが、そのほかのところは半透明である。口盤も半透明で、胃腔内が透けて見える。口盤中央部には口が開き、ここは円錐(えんすい)状に持ち上がって口丘(こうきゅう)を形成する。個虫および共肉の色は一般に淡く、乳白色、橙(だいだい)色、黄色、ピンク色などの種がある。口は裂状のことが多く、その長軸は骨軸に直交する方向に位置する。胃腔内には各触手の間に位置する口道に達する完全隔膜が6枚あり、骨軸方向に一致する2枚は大きく、そこに生殖腺(せん)が発達する。種によってはこの6枚の完全隔膜しかないものもあるが、大多数の種では口丘内にのみ4枚または6枚の小さな第2次隔膜を有する。管溝はほとんど認められない。筋肉系の発達はいたって弱く、ほかの花虫類にみられる隔膜の縦走筋である筋旗(きんき)もほとんど認められない。深海産の羽毛状群体をなすBathypathes属、Schizopathes属やカラマツ状群体をなすTaxipathes属では各個虫は骨軸上に長く伸びて、それぞれが2本の触手をもつ三つの胃腔に分離し、二型現象がみられる。上下の2個虫には口がなく生殖腺が発達し、中央の個虫は口をもち生殖腺を欠く。ただ南大西洋の孤島アセンション島において過去一度だけ報告されたDendrobrachia属は、八放サンゴ類のように羽状突起を備えた8本の触手をもっている。
[内田紘臣]
生態
4科14属約150種が知られるが、多くは水深10~500メートルの岩礁上に固着する。深海産のBathypathes属は2000~3000メートルに産するものが多い。ツノサンゴ目には、第1次隔膜の6枚の完全隔膜しかないハネカラマツ科、第2次の不完全隔膜をもち6本の触手をもつウミカラマツ科、同じく第2次隔膜をもつが個虫が長く伸び、2本の触手をもつ三つの個虫に分かれた科Schizopathidaeと、8本の羽状触手をもつ科Dendrobrachiidaeの4科に分けられる。ハネカラマツ科のハネカラマツCladopathes heterostichaが相模(さがみ)湾から知られ、ウミカラマツ科では骨軸が分岐しないイトスギ属Stichopathes、骨軸は分岐しないが骨軸上に数列の個虫が並ぶネジレカラマツ属Cirripathes、毛ブラシ状のケツノサンゴ属Parantipathes、樹状・網状・箒状のウミカラマツ属Antipathesなどが日本から知られる。
[内田紘臣]
利用
この類の骨軸は、かつてはパイプや箸(はし)などに加工された。また、ハワイ産の種は装飾用に用いられ、クロサンゴと称され珍重される。この類の骨軸からつくられた御守(おまも)りはギリシア・ローマ時代に魔除(まよ)けに用いられたので、ツノサンゴ類のことをマヨケサンゴとも称する。
[内田紘臣]