ツバキ(読み)つばき

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

ツバキ
つばき / 椿・山茶
[学]Camellia japonica L.

ツバキ科の常緑高木。ツバキ属の他の種類と区別して、ヤブツバキと称することもある。高さ5~15メートル。樹皮は平滑で灰白色をしている。葉は互生し、楕円(だえん)形で長さ5~12センチメートル、先は短くとがり、縁(へり)に細かい鋸歯(きょし)がある。質は厚くて堅く、表面は光沢があり、葉柄とともに毛はない。2~4月、赤色または紅紫色の花を半開して枝先に単生する。花冠は広鐘形で径4~8センチメートル、花弁は5、6枚で下部は合生する。萼片(がくへん)は卵円形で多数の小包葉とともにうろこ状に重なり、外面に白い短毛がある。雄しべは多数あり、白色の花糸は合着して筒状の単体雄しべとなり、上部3分の1が離生する。雌しべは、子房は無毛、花柱の先は3裂する。果実は球形の(さくか)で径4~5センチメートル。果皮は厚く、秋に熟すと3裂して暗褐色の大形の種子が2、3個現れる。暖帯の海岸や山林に広く生え、本州から九州、および朝鮮半島南部に分布する。日本における北限は青森県東津軽郡平内(ひらない)町の椿山で、東北地方では海岸の暖地に局地的にみられるが、北海道には自生しない。
 ツバキ属camellia/【学】Camelliaはアジア東部と南東部に約100種分布し、日本にはツバキのほかに葉は小形で葉柄に毛があり、花糸の大部分は離れ、花弁はばらばらに散るサザンカ(オキナワサザンカを分けることもある)とヒメサザンカが自生。ツバキの亜種にはユキツバキとホウザンツバキ(タイワンヤマツバキ)があり、前者は東北・中部地方の日本海側に、後者は沖縄、台湾に分布する。変種にはツバキとユキツバキの中間型のユキバタツバキがある。また屋久(やく)島には果実が大きく、径5~7センチメートルになるリンゴツバキがあるなど、変化が多い。[小林義雄]

園芸品種

東京、名古屋、京都、奈良、肥後(ひご)ツバキで代表される熊本などの地方の品種が多いが、最近では北陸、四国地方からも多くの品種がみいだされている。これまではツバキとユキツバキを主体とした園芸品種が多かったが、最近はトウツバキ、サルウィンツバキその他と交雑した品種も多くなり、1000品種以上ある。また最近は、中国広西チワン族自治区で発見された黄色で小輪のツバキ金花茶(きんかちゃ)を交雑親とする黄色ツバキの育成が盛んになっている。このほか、アメリカをはじめ海外での栽培も盛んになってきており、新品種が多数つくられている。日本に輸入されるものも多く、花は大輪、多花弁で、花色ははでなものが多い。
 花形、花色は変化に富み、一重咲き、八重咲き、唐子(からこ)咲き、二段咲き、牡丹(ぼたん)咲き、獅子(しし)咲きのほかに、淡桃色重弁のオトメツバキ(乙女椿)のような千重(ちえ)咲きなどがあり、黒紅色から濃紅、紅、淡紅、白色のほか、絞り、覆輪もある。[小林義雄]

用途

花木として庭園、公園に植栽され、鉢植え、盆栽、いけ花などにする。種子から得た椿油は食用油、頭髪油とし、オリーブ油の代用として軟膏(なんこう)基剤などにする。材は緻密(ちみつ)で磨くと光沢が出るので、各種の細工物、器具に用いる。[小林義雄]

栽培

適潤な肥沃(ひよく)地でよく育ち、成長は遅いが、耐陰性、耐潮性が強くて比較的強健である。[小林義雄]
植え付け
植え付け、移植の適期は3月中旬から4月中旬、6月中旬から7月上旬、9月中旬から10月中旬である。春は萌芽(ほうが)前に植え、梅雨期はとくに成木の移植に適している。植え場所は半日陰の排水のよい所がよく、過湿な所では根腐れをおこすので、盛り土をするか、溝をつくり排水をよくしてから植える。長い根を短く切り詰めた場合は、地上部の枝葉も切り詰める。堆肥(たいひ)や腐葉土を入れ、あまり深植えにならないようにする。根には十分灌水(かんすい)し、根づくまでは根元に敷き藁(わら)をして土の乾燥を防ぐ。葉に蒸散防止剤を散布するか、寒冷紗(かんれいしゃ)で木を覆うと活着がよくなる。2月ころ、乾燥鶏糞(けいふん)などを寒肥として施す。整枝、剪定(せんてい)は3~4月、花が終わって芽の伸び出す前が適期である。夏季に枝を切り詰めると花が咲かなくなる。鉢植えの場合は中粒の赤玉土と日向(ひゅうが)土とを半々に混合して用い、施肥は2~3月と9~10月に、大きめの固形油かすを1~3個、鉢土の上に置き肥する。[小林義雄]
繁殖
挿木のほか、接木(つぎき)、取木、実生(みしょう)による。挿木の最適期は6月中旬から7月中旬で、春から伸びた新枝を挿す。春挿しは3~4月、前年に伸びた枝を挿す。用土は小粒の赤玉土がよく、明るい日陰に置き、過湿にならない程度に灌水する。接木は3~8月にする呼び接(つぎ)がもっとも活着しやすく、切り接、割り接などは3月から4月中旬と6月下旬から7月に行う。取木は4~6月が適期である。実生は秋に種子を採取してすぐ土に播(ま)く。[小林義雄]

病虫害

チャドクガの幼虫が4月下旬から6月上旬と7月上旬から9月上旬に発生し、葉を食害する。毒毛に触れるとひどいかゆみを生じるので注意を要する。5月上旬と8月上旬に「カルホス」「スミチオン」などの殺虫剤を散布して、初期に防除するのがよい。チャノミドリヒメヨコバイは6月ころから初冬まで、先端の若葉を吸汁するので「ランネート」水和剤を散布するとよく効く。カイガラムシ類のツノロウムシ、ルビーロウムシなどは、枝や幹についた虫を手でこすり取るか、冬季にマシン油乳剤を散布する。アブラムシ類には「マラソン」「スミチオン」「カルホス」乳剤などを散布し、また、「ダイシストン」粒剤、「オルトラン」粒剤などを根元の地表に散布する。花腐菌核(はなぐされきんかく)病は、発病した花やつぼみを集めて焼却し、「トプジンM」や「ベンレート」水和剤をつぼみと地表に散布して防除する。[小林義雄]

名所・天然記念物

ツバキの名所としては、自生種がある伊豆大島、高知県足摺(あしずり)岬、長崎県五島(ごとう)列島、石川県珠洲(すず)市(「高屋の千本椿」として知られる)などがある。また青森県平内町の椿山と秋田県男鹿(おが)市の能登(のと)山は、あわせて「ツバキ自生北限地帯」として国の天然記念物に指定されている。富山県氷見(ひみ)市の「上田の椿」「不動の大椿」、愛媛県四国中央市の「猿田の椿」などの大木は県の天然記念物になっている。[小林義雄]

民俗

一般にツバキの木は神意の現れるものと信じられ、神聖な木として崇(あが)められている。もともとは暖地の植物であったが、はるか奥羽の海岸にも茂って、おおかたは神の杜(もり)(森)をなしている。柳田国男(やなぎたくにお)の説によると、ツバキのような木は、なにか人の力が加わらない限り、とうてい雪国には入りえなかったであろうとされる。若狭(わかさ)の八百比丘尼(はっぴゃくびくに)という者は、八百歳の長寿を保ったというが、ツバキの枝を持って日本各地を巡ったと伝えられており、宗教家のそのような巡歴が、ツバキの分布にかかわったものと考えられる。元来「椿」という漢字はわが国のツバキをさすものではなかったが、同じ国字がツバキにあてられたというのも、春の喜びを伝えるのにもっともふさわしい木と認められたからであろう。
 江戸初期には、貴紳の間にツバキの変種がもてはやされ、それに関する図譜もまとめられている。それにもかかわらず、庶民の間では、今日まで屋敷にツバキを植えるのは不吉なこととして忌まれがちである。そのいわれについては、人の首が落ちるように花が散るからだというが、かならずしも確かなこととはいえない。神聖なツバキの木は、神の社(やしろ)だけではなくて、寺や墓にもみられるので、屋敷に植えるのが忌まれたものであろう。また、病人の見舞いにツバキの花を持って行くことが忌まれ、身辺の道具にもこの木を用いることが忌まれている。土地によっては、ツバキの木は化けて出るとも伝えられる。「化物寺(ばけものでら)」の昔話では、ツバキの床柱が化物となって現れたとも語られている。そのほか、ツバキのつぼみが上に向いてつくと、大雪あるいは小雪のしるしともいい、秋や寒中に咲くと、豊作のしるしなどというように、多くの俗信とも結び付けられている。また、腫(は)れ物などを治すのにツバキの葉をあぶって貼(は)ったり、火傷(やけど)などを治すのにツバキの油を塗ったりするというように、さまざまな民間療法にも用いられている。[大島建彦]

文学

上代の文献や文学作品には数多くみられ、重要な植物である。中国の椿とは別種といわれる。常緑で生命力が盛んであることから呪(じゅ)性があると考えられ、『古事記』仁徳(にんとく)天皇条の「葉広(はびろ) 斎(ゆ)つ真椿(まつばき) 其(し)が花の 照り坐(いま)し 其(し)が葉の広(ひろ)り坐すは 大君(おほきみ)ろかも」は、天皇の勢威を賛美したものであり、『日本書紀』景行(けいこう)天皇12年条には、海石榴(つばき)を椎(つち)という武器につくり逆賊を征伐したとある。『出雲国風土記(いずものくにふどき)』意宇(おう)郡条には、草木のなかに「海榴(つばき)」がみえる。連なり咲く椿は、『万葉集』に「巨勢(こせ)山のつらつら椿つらつらに見つつ偲(しの)はな巨勢の春野を」(巻一・坂門人足(さかとのひとたり))などと詠まれており、また、椿の灰は紫草で染める媒染剤として用いられ、「紫は灰さすものぞ海石榴市(つばきち)の八十(やそ)の衢(ちまた)に逢(あ)へる子や誰(たれ)」(巻一二)などと詠まれている。平安時代に入って、『古今六帖(こきんろくじょう)』六には、万葉歌が「椿」の項目に4首、また誤読されて「ざくろ(石榴)」の項目に1首収められているが、和歌にはほとんど詠まれず、『栄花物語』「ゆふしで」や『新古今集』「賀」にわずかの例がある。椿の葉で餅(もち)を包んだ椿餅(「つばいもちひ」などとよばれる)は、『うつほ物語』や『源氏物語』などにみえる。季題は春。[小町谷照彦]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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