ナツツバキ(その他表記)Stewartia pseudo-camellia Maxim.

改訂新版 世界大百科事典 「ナツツバキ」の意味・わかりやすい解説

ナツツバキ (夏椿)
Stewartia pseudo-camellia Maxim.

ツバキ科の樹高15mにも達する落葉高木で,6月下旬ツバキに似た白い花を咲かせる。一名シャラノキとも呼ばれるが,これはインド産のサラソウジュと誤認したことによる。釈迦沙羅の下で死んだので,仏教ではサラソウジュは聖なる木となり,誤認されたナツツバキもしばしば寺院庭園内に植えられている。幹および枝条はサルスベリに似て,樹肌は平滑で赤色を帯び,古い外皮は剝離する。葉は膜質,倒卵形または楕円形,葉の表は無毛,裏はまばらに圧着する長毛がある。花は直径6~7cmで,その年に伸びた枝の葉に腋生(えきせい)し,長さ1~6cmの花梗上につく。花弁白色,倒卵形で,縁に不整の細い歯状の突起があり,背面に白色の絹毛を密生する。ツバキ科の植物は,果実や種子の形態によって属間の区別がされるが,ナツツバキ属は,裂開する果実に中軸がなく,種子がレンズ形で,縁に狭い翼があることで他のツバキ属から区別される。近縁種ヒメシャラS.monadelpha Sieb.et Zucc.は花径が1.5~4cmと小さく,花梗が1cm以下と短く,葉の裏の脈上だけに毛があることなどから区別されている。

 ナツツバキ属Stewartiaは,東アジアおよび北アメリカに8種が分布し,日本には3種が知られている。日本ではおもに南西部に生えており,ナツツバキはこの属の中でも最も北まで分布し,新潟県の五頭山麓が北限である。ナツツバキのほかにも数種が花木として庭園に植えられる。材は床柱彫刻器具薪炭などにする。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ナツツバキ」の意味・わかりやすい解説

ナツツバキ
なつつばき / 夏椿
[学] Stewartia pseudocamellia Maxim.

ツバキ科(APG分類:ツバキ科)の落葉高木。シャラノキ(沙羅樹)ともいうが、サラソウジュ(沙羅双樹)の名で利用されることがあり、真正のサラソウジュ(フタバガキ科)と混同されることが多い。樹皮は赤褐色で滑らかである。葉は互生して枝先につき、楕円(だえん)形で長さ約10センチメートル。夏、新枝の葉腋(ようえき)に径約5センチメートルでツバキに似た白色花を1個ずつ開く。萼片(がくへん)、花弁ともに5枚。雄しべは多数あり、花糸の基部は花弁に合着する。雌しべは1本で、花柱は5裂する。子房は上位で、白毛を密生する。蒴果(さくか)は宿存萼に包まれ、10月ころ茶褐色に熟すと、5片に裂開する。種子は卵形で先はとがり、狭い翼がある。山中に生え、東北地方以西の本州から九州、および朝鮮半島に分布する。庭木として植えられ、材は床柱、器具、彫刻に用いる。

[杉山明子 2021年4月16日]


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百科事典マイペディア 「ナツツバキ」の意味・わかりやすい解説

ナツツバキ

ツバキ科の落葉高木。本州(福島以南)〜九州の山地にはえる。樹皮は平滑で褐色,古くなると剥離して独特のもようを生じる。葉は楕円形で先がとがる。6〜7月,葉腋に径5cm,白色5弁で,花弁にしわのある花を開く。葉と花弁の裏面には白い絹毛がある。おしべは多数で合着する。卵形で先がとがった【さく】果(さくか)が10月に熟し,5裂する。庭木,公園樹とされ,材は床柱,器具などとされる。なお寺院などに植えられてシャラノキ,サラノキと呼ばれるが,サラソウジュとは別。近縁のヒメシャラは関東〜九州の山野にはえ,葉は卵状楕円形,径2cm内外の白色の5弁花を開く。
→関連項目サラノキシャラノキ

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ナツツバキ」の意味・わかりやすい解説

ナツツバキ(夏椿)
ナツツバキ
Stewartia pseudo-camellia

ツバキ科の落葉高木。北海道を除く日本各地の山中に自生するが,夏に白いツバキに似た花が咲くので観賞用に庭園に栽植される。葉は互生し楕円形で長さ 10cm内外,厚く革質で,鋸歯がある。花は径 5cm内外で平開せず,開花後すぐ落ちる。花弁は5枚で皺がより,縁に細かい鋸歯がある。萼片,花弁とも背側に白い絹糸状の毛が目立つ。多数あるおしべは浅い円筒状に癒着して単体おしべをつくる。材は緻密でじょうぶなため,樹皮のついたまま床柱とし,また農・工具の柄,ろくろ細工,彫刻材,薪炭材などに用いる。

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世界大百科事典(旧版)内のナツツバキの言及

【サラソウジュ(沙羅双樹)】より

…樹高50~60mになるものが多く,ラワン,メランチmerantiなど有用な木材を産する。なお日本で寺院にサラノキ(シャラノキ)として植栽されるのは,サラソウジュとは全然異なるツバキ科のナツツバキである。【緒方 健】 ところで,仏教における伝説では,釈迦の入滅に際し,その四方に2本ずつ生えていた8本のシャーラ樹のうち,各対のそれぞれ1本が枯れたといい,これを〈四枯四栄〉という。…

※「ナツツバキ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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