翻訳|dextrin
デンプンを酸またはアミラーゼ類で加水分解すると,最終的にはグルコースとなるが,その途上で,さまざまな分子量の中間生成物が得られる。これらを総称してデキストリンという。そのうち,分子量1万程度のものをアミロデキストリン,分子量7000程度のものをエリスロデキストリン,分子量4000程度のものをアクロデキストリンと呼び,ヨード反応による呈色はそれぞれ青藍色,赤褐色,淡褐色である。デンプンをβ-アミラーゼで加水分解すると,デンプン分子の分枝点(1,6-グルコシド結合点)で分解が止まってしまい,分子量15万程度の未分解物が残る。これをβ-リミットデキストリンという。最近注目されているものにシクロデキストリン(CDと略す)がある。これは,微生物が生産するCD合成酵素をデンプンに作用させると生じる環状少糖類で,グルコースが6個から成るα-CD,7個から成るβ-CD,8個から成るγ-CDの3種が知られている。
デキストリン類は一般に水に溶けやすく,食品素材,微生物培地,糊料(こりよう),衣服の仕上げなど広範な用途をもっている。CDは種々の化合物とクラスレート化合物を形成し,これらが熱,光,酸素などによって分解するのを防ぐ能力をもつため,医薬品成分や食品成分の安定化剤として利用される一方,食品の呈味改良剤として活用される可能性も見いだされている。
執筆者:荒井 綜一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
デンプンを化学的あるいは酵素的方法で低分子化したものの総称.工業的には,塩酸などの存在下,粉末状態(水分約10%)で加熱(120~160 ℃)して得られるばい焼デキストリン(白色または黄色デキストリン)をさす場合が多い.この過程で,デンプン分子は部分的加水分解を受けるとともに,再結合による枝分れが多くなると考えられている.可溶性デンプンは短時間低温加熱して低分子化した白色デキストリンで,粘性が高いので接着剤に用いられる.より高温(150~200 ℃)処理した黄色デキストリンはかろうじて水に溶け,粘度も低い.セルロース系素材の接着,水溶性フィルム,練炭やモルタルの粘結剤,染料や医薬品の希釈剤,セメントの硬化遅延剤などに利用される.そのほか,デンプンの枝分れ成分であるアミロペクチンにα-アミラーゼを作用させると,枝分れを残したα-限界デキストリン(重合度7~8)が,またβ-アミラーゼを作用させると2~3個のグルコース残基の枝をもつβ-限界デキストリンが得られる.また,Bacillus maceransなどの特殊なグルコシルトランスフェラーゼを作用させてシクロデキストリンが得られる.[CAS 9004-53-9]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
糊精(こせい)ともいう。デンプンを酸、熱、酵素などで加水分解するときに生ずる中間生成物で、デンプンより分子量の小さい多糖の総称。アミロデキストリンともいう。デンプンをわずかに分解した高分子量のものから、ヨウ素デンプン反応を呈しない低分子量のものまで、広範囲のものが含まれる。生体内では唾液(だえき)や小腸内の細菌によってデンプンからデキストリンを生ずる反応が行われる。工業的には、おもに加酸焙焼(ばいしょう)法が行われている。
なお、デンプンの酸や酵素による加水分解で生じたデキストリンはデンプンとほぼ同様に消化吸収されるが、焙焼デキストリン(ピロデキストリン)には消化酵素で分解されにくい結合をもつものがある。また、製法によって分岐度の異なるデキストリンが得られ、市販品には白色、淡黄色、黄色の3種がある。白色デキストリンは冷水に40%以上、温水には完全に溶ける。主として絹物などの織物の仕上げ糊(のり)、あるいは錠剤の賦形剤として用いられる。淡黄色および黄色デキストリンは冷水に完全に溶け、粘度が低く、用途が広い。すなわち、切手や封筒などの裏糊、事務用糊など各種の接着剤、水性塗料、製薬の調合や薬品の賦形剤、練炭の粘結剤などにも使われる。
[村松 喬・不破英次]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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