デバイの比熱式(読み)デバイのひねつしき(英語表記)Debye's specific heat formula

改訂新版 世界大百科事典 「デバイの比熱式」の意味・わかりやすい解説

デバイの比熱式 (デバイのひねつしき)
Debye's specific heat formula

固体比熱について,アインシュタインの比熱式の改良としてP.デバイが1912年に提案した式。アインシュタインは,固体内の個々の格子点を独立な単振子として扱ったが,デバイは格子の集団運動の本質をとり入れて,まず固体を連続弾性体とみなした。連続体では運動の自由度が無限大になるが,格子では有限であることを考慮して,連続体の振動モードのエネルギーの低いほうからとり入れ,モードの数が格子点の自由度と等しくなるところで打ち切る。このようにして求められた定積モル比熱は,

 Cv=3RfDΘD/T

と書かれる。Rは気体定数,Tは絶対温度ΘDは上の打切りに対応するエネルギーでデバイ温度と呼ばれ,数百Kの程度である。また,fDデバイ関数と呼ばれ,である。デバイの比熱式では,Cvは低温でT3比例,また高温では一定となってデュロン=プティの法則に一致し,広い温度域にわたってよく実験と整合する。
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法則の辞典 「デバイの比熱式」の解説

デバイの比熱式【Debye's formula of specific heat】

高温ではデュロン‐ブティの法則*,低温ではデバイの T3 法則*をともに満足させられるように考えられた比熱の方程式.3N 個の結合した振動子のエネルギーを量子力学的に計算した結果導かれた,固体の定積比熱Cv)の温度依存性を表した式である.

ここで νm はデバイ周波数と呼ばれる.3N 個の振動のうち最大のものの値に相当するが,物質によって異なる.hν/k は温度の次元をもつ量で,デバイ温度*と呼ばれ,Θ(ときには Θc)で表すことが多い.Θ/T は無次元数であるが,これを x とおいたときには

となる.

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「デバイの比熱式」の意味・わかりやすい解説

デバイの比熱式
デバイのひねつしき
Debye's specific heat formula

1912年 P.デバイが提出した比熱式。アインシュタインの比熱式を改良したものである。彼は固体中の振動がアインシュタイン模型のように独立な調和振動子ではありえなくて,1つの原子変位するとまわりの原子が引きずられて変位を起し,振動は波として固体中を伝わると考えた。したがって全体の振動は結晶格子固有振動として定まる。結晶中には十分に多くの原子があるので,この固有振動を連続弾性体の弾性振動で近似して比熱式を得た。この式から,定積比熱は高温ではデュロン=プチの法則に一致し,低温では絶対温度に比例して実験とよく一致することがわかった。図で Cv はモル定積比熱,R は気体定数,T は絶対温度,Θ常磁性キュリー温度である。 Cv/3R=1 はデュロンプチ法則で与えられる。

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世界大百科事典(旧版)内のデバイの比熱式の言及

【比熱】より

…アルゴンなどの単原子気体では定積モル比熱Cvは3/2R,水素,酸素などの2原子気体ではCv=5/2R,多原子気体ではCv=3Rに近い。 固体の比熱に関しては,その定積モル比熱Cvが3Rに等しいというデュロン=プティの法則や,アインシュタインによるアインシュタインの比熱式,これを改良したデバイによるデバイの比熱式がある。デバイの比熱式は,格子振動を連続体の弾性振動(縦波と二つの横波)でおきかえることによって導かれたもので,絶対温度をTとして,と表される。…

※「デバイの比熱式」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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