デュメジル(読み)でゅめじる(英語表記)Georges Dumézil

日本大百科全書(ニッポニカ) 「デュメジル」の意味・わかりやすい解説

デュメジル
でゅめじる
Georges Dumézil
(1898―1986)

フランスの言語学者、神話学者。アカデミー・フランセーズの会員でもあった。語学の才を駆使した比較研究によって、インドイランゲルマンケルト、古代ローマなど、インド・ヨーロッパ語族の神話が、共通の世界観の体系に基づいて組織されていたことを明らかにした。それは〔1〕祭司、〔2〕戦士、〔3〕生産者のそれぞれの社会的任務に対応する3種の原理が、自然界や超自然界など宇宙のあらゆる分野でも協同しているとみなすもので、この世界観を彼は、「インド・ヨーロッパ的三機能体系」とよんだ。『神話と叙事詩』3巻(1968~1973)など、50冊を超える著書がある。

吉田敦彦 2018年7月20日]

『デュメジル著、松村一夫訳『ゲルマン人の神々』(1980・日本ブリタニカ/1993・国文社)』『丸山静・前田耕作編『デュメジル・コレクション』全4冊(ちくま学芸文庫)』

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改訂新版 世界大百科事典 「デュメジル」の意味・わかりやすい解説

デュメジル
Georges Dumézil
生没年:1898-1986

インド・ヨーロッパ語系の諸民族の神話を比較研究し,その共通の構造と内容とを明らかにした業績によってとくに著名なフランスの言語学者,神話学者。アカデミー・フランセーズの会員でもある。インド,イラン,ゲルマン,ケルト,古代ローマなどの神話が,共通した〈世界観〉に基づいて組織されていることを明らかにした。それは,(1)祭司と,(2)戦士と,(3)生産者のそれぞれが人間の社会で分担している役割と基本的に照応する3種の原理が,宇宙秩序の維持のためにも,あらゆる分野で協同しているとみなすもので,この世界観を〈インド・ヨーロッパ3機能体系〉と名づけた。この発見を出発点にしてインド・ヨーロッパ神話を縦横に比較分析し,学界のみならず思想界にも衝撃を与えた。大著《神話と叙事詩》3巻(1968-73)のほかに,単行本だけで50冊を超える著書がある。カフカス諸語など,言語学の分野でも重要な研究がある。
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百科事典マイペディア 「デュメジル」の意味・わかりやすい解説

デュメジル

フランスの言語学者,比較神話学者。A.メイエ,M.グラネ,M.モースらから感化を受けた。ワルシャワイスタンブルウプサラの各大学で教えてのち,高等研究院,コレージュ・ド・フランス教授,1978年以降アカデミー・フランセーズ会員。祭司・戦士・生産者からなる三元的世界観(三機能イデオロギー)をインド・ヨーロッパ語族の神話・伝承に見出して,神話学のみならず人間諸科学に大きな影響を与えた。レビ・ストロース,M.フーコーとの交遊と相互触発,C.ギンズブルグによる親ナチズムとの批判も特記される。主著ゲルマン人の神話と神々》(1939年),《古ローマの宗教》(1966年),《神話と叙事詩》(1968年―1973年)ほか。
→関連項目神話学

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世界大百科事典(旧版)内のデュメジルの言及

【アース神族】より

…古代インドの1対の神ミトラ/バルナにその表現がよく用いられ,しかもこれらの神とボーダン(オーディン)との密接な関係が認められるところから,ヤン・デ・フリースはオーディンとアース神の関係が生ずるとしている。比較神話の立場から北欧神話をインド・ヨーロッパ語族の神話の中に位置づけ,主権,戦闘,富の生産の3機能説を唱えるデュメジルは,アース神族とバン神族の対立と共存の問題を宗教戦争や政治的な征服戦争の反映とする説をしりぞけ,相互補完的な役割分担を意味するとし,オーディンは主権,祭祀,魔術などをつかさどる第1機能,トールは戦闘,暴力などをつかさどる第2機能,バン神族は豊饒と平和などをつかさどる第3機能をうけもつ神だとする3機能体系説を唱えている。北欧神話【谷口 幸男】。…

【神話学】より

…しかしその立場から著された《金枝篇》に代表されるイギリスの古典学者・人類学者J.G.フレーザーの膨大な著作は,神話研究にとってきわめて貴重な資料の集成として,高い価値を現在でも失っていない。 現在の神話学を代表する権威の双璧は,フランスの比較神話学者デュメジルと,人類学者レビ・ストロースである。デュメジルは,〈自然神話学派〉とはまったく異なる構造分析的な比較の方法と,すぐれた語学力を駆使して,インド・ヨーロッパ語系の諸民族の神話は元来,彼が〈3機能体系〉と名づけた独特の世界観を反映し,共通の構造と内容を持っていたことを明らかにした。…

【バン神族】より

… アース神族とバン神族の戦いについては種々の解釈がある。歴史的事件の反映とか,土着の豊饒神信仰と外来の好戦的な神信仰の抗争とか,G.デュメジルのようにインド・ヨーロッパ語系諸族の神話の中へ位置づけ,神々の3機能のうち豊饒を司る第3機能をバン神族にあてる説もある。北欧神話【谷口 幸男】。…

【ローマ神話】より

…それにもかかわらず歴史を装ったこの物語のなかには,神の子としての不思議な双子の誕生,捨子と獣による養育,成人しての肉親との再会など,先行するギリシア神話との共通要素を容易に指摘することができるし,また夫と親兄弟との間を調停するサビニの女は,現実のローマ社会において婦人の占める重要な役目を,ロムルスとレムス,ないしはロムルスとタティウスとの共同支配は,共和政における2人のコンスル(執政官)制度にそれぞれ神話的な根拠を提供しているとも受け取れよう。さらに比較神話学者のG.デュメジルのように,ローマ人とサビニ人との抗争と和解が,例えばゲルマン神話におけるアサ神族とバナ神族との戦いと和解の神話に酷似することから,本来の神話の歴史物語化をここに認めようとする学者もいる。以上のごとき多様な意味をこめ,ローマ人は歴史伝説という形で真にローマ的な神話をもったということができよう。…

※「デュメジル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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