フランスの神秘思想家。本名コンスタンAlphonse Louis Constant。西欧に伝わる魔術の基本,カバラ研究の権威であり,同時にまたその実践者として〈魔道中興の祖〉と称される。パリで生まれ,はじめ聖職を志して神学校に学び,卒業後助祭の地位にまで進んだが,神秘主義,社会主義に接近してしだいに正統的カトリシズムから遠ざかり,1844年に出版した著書《神の母》は教会から異端の書として糾弾された。45年には,ボードレールの同名の詩への影響が指摘される〈コレスポンダンス〉を含む詩集《三つの調和》を刊行している。46年還俗(げんぞく)して結婚生活に入るが,間もなく離婚。51年,長年取り組んできた《キリスト教文献事典》を中途で放棄して,魔術研究に没入,同時にカバラへの帰依のしるしとして名前もヘブライ語化して,エリファス・レビと改める。《高等魔術の教理と祭儀》(1855-56)に続いて,60年から65年にかけて,その方面の研究成果を〈オカルト哲学叢書〉として次々と世に問い,代表的なものに《魔術史》(1860),《大神秘の鍵》(1861)などがある。死の直前,教会と和解したともいわれるが,その魔術関係の諸著作が19世紀後半以降のヨーロッパ異端思想や文学に与えた影響は甚大で,ランボー,ボードレール,ビリエ・ド・リラダン,マラルメ,W.B.イェーツ,ブルトンらにインスピレーションを与えたほか,今日まで絶えることなく読み続けられている。
主著《高等魔術の教理と祭儀》は,前・後編2部に分かれ,第1部においては,カバラ的・錬金術的・キリスト教的角度から,魔術作業の根底に横たわる諸原理・諸理論を取り上げる。いっぽう第2部実践編においては,魔術の儀式に必要な諸道具,さらに降霊術,呪術,占術などの儀式の中での,それらの道具の具体的な用い方が説明されている。
執筆者:生田 耕作
フランスの数学者。1904年エコール・ポリテクニクに入学,学生時代から解析学の論文を発表していた。1913-20年までエコール・ポリテクニク教授,1920-59年まで鉱山大学教授を務めた。研究面では,J.アダマールに深く師事し,その学風に大きな影響をうけた。1911年の学位論文は曲線の汎関数の解析,変分などについてであり,初期の仕事は関数解析が中心であった。その研究成果をまとめた書物は22年に出版され,51年版をあらためたが,重要な文献となった。レビといえば確率論で最大の業績をあげた学者として知られているが,その方向に専念することになったのは1920年ころからである。数々の重要な研究成果は34年の《確率変数の和の理論》(1948),《確率過程とブラウン運動》(1965再版増補)におさめられ,両書は不朽の名著となった。それらはとりつきにくいという声もあるが,基本的内容を素朴にとらえて問題提起をしており,彼自身の思考の表現法を守りとおしている。1964年アカデミー・デ・シアンス会員となる。
執筆者:飛田 武幸
フランスの東洋学者。パリ大学でサンスクリットを学び,1884年アジア協会会員となり,インド省所蔵の写本調査に従事した。94年よりコレージュ・ド・フランス教授としてサンスクリット,インド学,言語学を講じた。1922年からはパリの高等研究院の宗教学主任を務める。研究領域は広く,ベーダ時代の祭式,古典インドの文学,演劇,ギリシア・インド文化交渉史,サンスクリット・チベット語・古典中国語による仏教文献の比較研究,またチベット,中央アジア将来の文献の目録化とそこで発見されたトカラ語Bの解読など,インド文化圏の全域をおおっている。主著に《ブラーフマナにおける祭式の理論》(1898),《インド演劇》(1890),《唯識論体系研究資料》(1932)などがあり,《大乗荘厳経論》2巻(1907,11),《唯識二十論・三十論》(1925)などの校訂・出版も多い。アジア協会会長,日仏会館館長として3度来日し,高楠順次郎とフランス語による仏教辞典《法宝義林》(1929。未完)の共同編集なども行っている。
執筆者:高橋 明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
フランスの東洋学者。主としてインド学、仏教学に優れた貢献をなした。ソルボンヌ大学(パリ大学)、コレージュ・ド・フランス、ストラスブール大学で教鞭(きょうべん)をとり、インド、ネパール、パレスチナ、アメリカ、ロシアなど世界各国に招かれた。日本にも三度来日し、日仏会館館長の職につき、東京帝国大学で講義し、帝国学士院名誉会員に列せられた。その著作はインド学のあらゆる分野を覆い、中央アジア、西域の言語研究、またこの地方から発見された仏典の校訂に不滅の業績を残した。著書、論文など多数ある。
[原 實 2017年4月18日]
…ラテン語のoccultum(〈隠されたもの〉の意)が語源。隠秘論,隠秘学などと訳され,(1)自然や精神生活について,近代科学の体系に組み込まれていない未知の諸現象を探究して,そこから隠された秘密を抽出し,(2)こうして取得した秘密の知を媒体にして,宇宙,自然,人間の現実をより高次の現実へと変容せしめようとする信仰,理論,技術をいう。これらの現象は,特異な能力にめぐまれた霊媒や超能力者を通じて発現することがあり,その際当事者の感覚器官が高度にたかまるあまり,テレパシー,透視,念力のような不可思議が見られ,また特定の個人や場所に結びついたお化け,幽霊,分身の現実化を招き寄せたりもする。…
…字義どおりには卑金属から貴金属,とくに黄金を製造する術をいい,さらに不老長寿の薬や万能薬を作る術をも含んで用いられる。一般に,ヘレニズム時代のアレクサンドリアにおいて,古来の冶金術,染色術とさまざまな宗教・哲学思想が結合されて生まれたと考えられており,ヨーロッパ,アラビアで高度の発展をみた。従来,詐術の一種あるいはせいぜい近代化学の前史をなす克服されるべき擬似科学と考えられてきたが,今日では,単なる物質操作・薬物調合の技術にとどまらない,体系的な思想と実践とを具備した独自な世界解釈の枠組みとする見方が有力である。…
…確率分布や確率変数に対して定まる一つの関数であり,初めレビP.Lévyによって導入され,確率分布の性質や確率変数列の極限などを調べるのに役だってきた。直線上の分布関数F(x)の特性関数φ(t)はスティルチェス積分,で与えられ,次の3性質をもつ。…
※「レビ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新