翻訳|derris
殺虫や魚毒に使用される薬剤で,マメ科デリス属Derris植物の根や地下茎部の茎から作られる。基源植物のデリス属に殺虫成分があることはヨーロッパでは19世紀中ごろに知られており,またマレーシア地域から太平洋諸島では昔から毒流し漁法の重要な魚毒植物でもあった。トバ,タチトバ,ハイトバなどがデリスの殺虫有効成分であるロテノンを多量に含み,栽培もされる。トバD.elliptica Benth.はフジに似た木本性つる植物で,葉は奇数羽状複葉で4~6対の小葉を有する。花は紅色で20~30cmの花序に総状につく。インド東部からマレーシア地域,ニューギニアまで広く分布する。トバの名はマレー系のデリス属に対する名称tubaから生じたものである。タチトバD.malaccensis Prainはマレー半島原産で,トバに似て茎はつる性であるが,直立する。ロテノン含有はトバより少ないといわれるが,収量は多い。ほかにデリス属でインド東部産のインドトバD.ferruginea Benth.(英名Indian tuba),アッサムから中国南部に分布するギョトウ(魚藤)D.triforiata Lour.などにもロテノン成分が含有されており,利用される。
デリス粉末は,日本では大正時代末から利用が始まり,化学殺虫剤が大量に合成されるまでは重要な殺虫剤の一つで,デリス粉剤,乳剤,セッケン製剤として広く使用された。最近になって塩素系の化学殺虫剤(DDT,BHCなど)の毒性が問題となり,哺乳類に対する毒性が低いことからデリスはジョチュウギクと同様見直されつつある。ロテノンは魚類には有毒で,マレーシアからポリネシアにおよぶ地域ではトバの根を水中でたたきつぶし,乳液を水中に流し魚をとった。人に対しての毒性が低いため有効な漁法であったが,現在はどこでもこの漁法は使用禁止になっている。
デリス属以外の近縁マメ科植物でロテノンを含有するものにLoncocarpus,Cracca,Mundurea属植物があり,デリスと同じように利用される。
執筆者:堀田 満
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
マメ科(APG分類:マメ科)のつる性低木で、一見フジに似ている。ミャンマー(ビルマ)、タイ、ベトナム、マレー半島、インドネシア、ニューギニア島などに分布する。枝は軟毛が密生し、横にはう。葉は奇数羽状複葉で長さ18~38センチメートル、小葉は倒卵形または倒披針(ひしん)形で、先は急にとがり、9~13個からなる。淡紅色の花は、長さ約1.8センチメートルで、大きな総状花序(長さ18~25センチメートル)をつくる。
東南アジアでは古くから魚をとる目的で、根、茎、葉をつき砕いて河川や池に流したり、矢毒の一成分として用いてきた(これをトバtoeba, tubaと称する)。トバに用いる植物の種類は多いが、もっとも主要とされるのが本種である。また、トバは害虫に対する忌避剤、接触毒として農薬にも用いられるが、その濃度は人畜や植物に薬害を生じない程度のものである。デリスに含まれるロテノンという成分は、ごく微量で魚に猛毒を現す。ロテノンは台湾で同様の目的に使用するドクフジMillettia pachycarpa Benth.(M. taiwaniana Hayata)の根から初めて取り出されたものである。マレー半島ではマラケンシス種P. malaccensis (Benth.) Adema(D. malaccensis Prain)を、インドではナガミノシイノキカズラ(フェルジネア種)D. ferruginea Benthamをデリスと同様に用いる。
[長沢元夫 2019年10月18日]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
※「デリス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
《〈和〉doctor+yellow》新幹線の区間を走行しながら線路状態などを点検する車両。監視カメラやレーザー式センサーを備え、時速250キロ以上で走行することができる。名称は、車体が黄色(イエロー)...
12/17 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新