トゥアレグ族(読み)トゥアレグぞく(その他表記)Tuareg

翻訳|Tuareg

改訂新版 世界大百科事典 「トゥアレグ族」の意味・わかりやすい解説

トゥアレグ族 (トゥアレグぞく)
Tuareg

広大なサハラ砂漠を支配したベルベル系の遊牧民。人口は約50万と推定されるが,伝統的な遊牧生活を保っているのは,リビアアルジェリアにまたがるタッシリ・ナジェール,その西のアハガル山地ニジェールアイル山地,アルジェリアとマリにまたがるイフォラ山地に居住する1万人にすぎない。これらの山地に居住するトゥアレグ族は,ヒトコブラクダやヤギなどの家畜を飼育している。大多数のトゥアレグ族は,今ではニジェール,マリなど,サハラ砂漠の南縁に沿ったサバンナサヘル地帯で,牛を中心にヤギや羊を飼育し,ラクダの利用は運搬に限っている。

 トゥアレグ族はおもに七つの集団に分かれていて,それぞれは首長に率いられている。また,この社会には厳格な階層があり,貴族(イムシャール)は藍で染めた神秘的な青いベールをまとい(このことから〈青い種族〉などと呼ばれることもある),十字形の柄のついた長剣を腰にさげている。従臣(イムラート)は家畜を管理し,白いベールを身につける。イネスレメンあるいはマラブートと呼ばれるのはイスラム聖職者の階層である。さらに,黒人系のイクランという階層は,かつて奴隷であったが,今は農耕に従事し,鍛冶師や細工師であったりする。

 トゥアレグ族は,かつては略奪を行ったり,みずから砂漠を横断する隊商交易に従事していた。今でも塩の交易などに従事するが,国境画定やトラック輸送の発達で,これらの伝統的な生業は衰退してしまった。現在では,サヘル地帯で農耕民として定住ないし半定住する傾向が強い。1970年代の大干ばつはトゥアレグ社会に大打撃を与え,ナイジェリアやニジェールの町や村の周辺で難民化しているのが現状である。トゥアレグ族の言語はタマシェックといい,ティフィナグ文字という独特の文字を有している。縦書き・横書き自由のこの文字は,イフォラ山地では現在も手紙に用いられている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「トゥアレグ族」の意味・わかりやすい解説

トゥアレグ族
トゥアレグぞく
Tuareg

アルジェリアリビアニジェールマリなどのサハラ砂漠やその南のサバナに住むコーカソイド系のベルベル語を話す遊牧民。人口は 20世紀末で約 90万と推計される。オアシスで農業を営む者もいるが,本来は砂漠でラクダ,ヒツジ,ヤギなどを飼育する。また古くからラクダを使ったサハラ砂漠の隊商貿易を支配していた。七つの集団(北部のアハガル,アッジェル,南部のアブセン,イフォラ,イテサン,アウリミンデン,ケルタデマケト)に分かれ,連合を形成していた。アメノカルという首長を戴き,その下に貴族からハラティンという黒人奴隷にいたるまでの階級制度を保っていた。15歳以上の成人男子は青い衣装を着てターバンを頭に巻き,その特異な風俗から青衣の民といわれた。宗教はイスラム教を信仰する。話しことばをタマシェクといい,古代リビア文字(→リビア語)に似たティフィナグ文字を使用する。

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世界大百科事典(旧版)内のトゥアレグ族の言及

【アフリカ】より

…砂漠はよく陸の海にたとえられるが,文化交流における役割でも,砂漠は海と共通点をもっている。ベルベルと総称されてきたサハラの原住民であるハム系の諸族(その中には乾燥化以後ラクダの遊牧民としてサハラ砂漠の主となったトゥアレグ族や,著しくアラブ化した,ムーアと総称される西部サハラの牧民,オアシスやアルジェリア,モロッコなどの山地の農耕民が含まれる)を媒介として,北アフリカと黒人アフリカは,古くから相互に交流してきた。にもかかわらず,上記のような文化要素が黒人アフリカにとり入れられなかった一方では,青銅やシンチュウのロストワックス法による加工,馬と馬具,ある種の衣服やかぶりもの,鉄砲(16世紀以降),イスラム(7世紀以降),そしておそらく日乾煉瓦や版築の技法などは,サハラ以南のアフリカにも受容され,ひろまった。…

【サハラ砂漠】より

…アルジェリア山地のカビール,モロッコの山地のシュレウ,アルジェリアのオアシスのムザブなどは,現在まで古い文化を守っている集団である。ベルベルの中には,コムギやナツメヤシを栽培する農耕民や,トゥアレグ族のようなラクダの遊牧民もいる。(2)アラブは,7世紀に新しい宗教イスラムをもってエジプトからモロッコまで侵入したものと,11世紀以後大挙して移住したベドウィンに分かれる。…

【住居】より

…洞窟は先史時代の遺跡やヒッタイト人のものと考えられる横穴式住居跡,ビザンティン時代の隠遁修道士により掘られた修道院や穴居跡の再利用をはかったもので,前面に石積みの家屋が付加されるケースが多い。
【アフリカ】

[トゥアレグ族のテント]
 サハラ砂漠の南縁部はステップ地帯である。トゥアレグ族は砂漠の騎士として隊商を組織する一方,ステップ地帯で遊牧に従事してきた。…

【ティフィナグ文字】より

…サハラ砂漠に住むトゥアレグ族の用いる文字で,〈ラクダの時代〉(前200年以降)の岩面彩画・刻画にあらわれる。先行する古代サハラ文字alfabet Saharien Ancienから派生した。…

【マリ】より

…マリ国内のマンデ諸族Mandeには,バンバラ族(166万),ソニンケ族Soninke(サラコレ族Sarakole)(42万),マリンケ族(30万),カソンケ族Khassonkeなどの農耕民や,交易に従事するデュラDyula商人が含まれる。そのほか,大西洋側語群,ボルタ語群など言語系統の異なる部族のなかで有力なのは,中部のニジェール川が形成する内陸デルタ地域に居住するフルベ(フラニ,プール)族(55万),南部に住むセヌフォ族(43万),東部のニジェール川の大湾曲部に住むソンガイ族(30万),バンディアガラ山地に住むドゴン族(24万),北部の砂漠を生活の舞台とするトゥアレグ族や,その南のサヘル地帯に住むモール族Maureなどである。 バンバラ族は人口が最大で,しかも首都のバマコの住民でもあり,国内で最も大きな勢力をもっている。…

【リビア】より

…そしてこの地へはアフリカ内陸部やアフリカの外側からさまざまの種族の人びとが流入,とくに7世紀中ごろ以降,イスラムとともに侵入したアラブは11世紀半ばにはベルベルと急速に同化した。リビア人の大半が今ではアラブ系住民であるが,西部のガダミスやガットにいるトゥアレグ族や,トリポリタニア海岸平野の定住農民の一部のベルベル語と独自の生活習慣を守る人びとは純粋のベルベルである。またフェッザーンやキレナイカ南部には,かつてオアシス農業の奴隷として中央サハラから連れてこられ定着したトゥーブ人などの黒人住民もいる。…

※「トゥアレグ族」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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