トゥカーラーム(英語表記)Tukārām

改訂新版 世界大百科事典 「トゥカーラーム」の意味・わかりやすい解説

トゥカーラーム
Tukārām
生没年:1608-49

インド西部,マハーラーシュトラの代表的宗教思想家。ワールカリー(派)とよばれる宗教運動最大の聖賢詩人(サント)で,今日もトゥコーバーの親称でよばれる。その家族はクンビーkumbī(農耕)カーストに属し,代々ワーニー(穀物雑貨小売商)の仕事に携わっていた。早くからジュニャーネーシュワルらの伝統を受けて,地方神ビトーバーViṭhobāへのバクティ信愛)にその信仰の根本を見いだしていた。

 彼はカースト制による差別に対する不満を厳しいことばで語り,農村を中心にバイシャやシュードラなど低いカーストの大衆の立場を代弁した。その詩句はアバングabhangとよばれていて総数4600にも及ぶもので,《トゥカーラーム・ガーターTukārām-Gāthā(トゥカーラーム頌歌集)》としてまとめられている。その内容はビトーバー神への熱烈な信仰を説きつつ,一般大衆に対して信仰心を篤くし日常の仕事や義務を果たすべきことを訴えかけるものである。その文体は簡潔かつ直截的で,アバングの中のいくつかは今日なおマハーラーシュトラの一般家庭でよく知られた諺として用いられている。彼の教えはマラーター王国の創建者シバージーにも大きな影響を与えたといわれるが,同時代の宗教者ラームダースがバラモン社会の強化組織化に乗り出してシバージーに接近したのに対し,トゥカーラームは政治権力とのかかわりに無関心で,常に大衆の日常生活に視点をおいていたといわれる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「トゥカーラーム」の意味・わかりやすい解説

トゥカーラーム
とぅかーらーむ
Tukārām
(1608―1649)

インドのマハーラーシュトラの宗教詩人。熱烈なビシュヌ教徒で、ビシュヌ神に捧(ささ)げる数多く讃歌(さんか)を俗語マラーティー語で残す。彼の詩は、唯一神に対するバクティbhakti(誠信・信愛)の喜びを、素朴にしかも情熱的に歌い上げたもので、広く民衆に愛唱され、親しまれた。終生ささやかな一店主として暮らし、神への奉仕に生き続けた彼は、バクティ信仰体現者としても人々に敬慕された。

[矢島道彦 2018年5月21日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「トゥカーラーム」の意味・わかりやすい解説

トゥカーラーム
Tukārām

[生]1608
[没]1649
インド,マハーラーシュトラ地方のビシュヌ信仰の一派バーガバタ派の信仰者。マハーラーシュトラ・バクティ (信愛) 派の宗教詩人。マハーラーシュトラ地方の土着神ビトーバーに対する絶対帰依と信愛を歌った多くの賛歌「アバンガ」を残している。

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世界大百科事典(旧版)内のトゥカーラームの言及

【エークナート】より

…いずれもマラーティー語で書かれている。ジュニャーネーシュワル,ナームデーオに続くマラーターの民衆宗教家として,有名な17世紀のトゥカーラームの思想形成に大きな影響を与えた。【宮元 啓一】。…

※「トゥカーラーム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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