ソ連邦の詩人パステルナークの長編小説。1954-56年に完成,56年《ノーブイ・ミール(新世界)》誌から掲載を拒否され,翌年イタリアのフェルトリネリ社から刊行された。58年作者のノーベル文学賞受賞と関連して,ソ連では作品の〈反革命性〉について大キャンペーンが起こり,世界的な話題となった。1905年のロシア革命前夜から約四半世紀の激動の時代を舞台に,個人の内的な自由の世界にとどまりつづけようとする誠実な医師ユーリー・ジバゴを主人公に,妻のトーニャ,永遠のロシアを象徴する女性ラーラとの愛の遍歴が小説の外面的筋をなす。形式的には詩と散文の交錯する地点に新しい表現の可能性を見いだそうとしてきた作者の宿願が結晶した作品で,革命と社会主義への深刻な幻滅,宗教的な色彩を帯びた新しい歴史原理への憧憬が都市と田園の自然との交感を通してひめやかに語られる。巻末に付せられた〈ジバゴ詩編〉は哲学詩の傑作。65年リーンによって映画化された。
執筆者:江川 卓
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ロシアの詩人パステルナークの長編小説。1957年、旧ソ連国内で出版を許されぬままイタリアで出版。翌年、作者のノーベル文学賞受賞をめぐって、ソ連では「反革命的」小説の烙印(らくいん)を押されたが、これは政治的文書にはほど遠いもので、むしろ詩と散文の交錯する地点に新しい表現の可能性を目ざした純粋に芸術的な作品と評価される。主人公の医師ユリー・ジバゴは、革命が政治的、社会的な選択と権力への思想的忠誠を迫った時代に、あくまでも個人の精神的な自由に誠実に生きようとした知識人の典型として示され、永遠のロシアを象徴する女性ララへの主人公の愛、自然との詩的な交感、時代の便乗者と落後者に仕分けられる作中人物たちの運命を通して、革命と社会主義の現実への作者の深刻な幻滅、神話的な統一原理への憧憬(しょうけい)が語られる。68年デビッド・リーン監督によって映画化された。
[江川 卓]
『江川卓訳『ドクトル・ジバゴ』(1980・時事通信社)』
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… 1920年代に入ると,《シェーニャ・リューベルス》(1922),《空路》(1924)などの散文作品が書かれ,詩でも叙事的な志向が強まって,《高き病》(1924‐28),《1905年》(1926),《シュミット大尉》(1927)などで,革命と個人の運命についての思索が語られる。韻文小説《スペクトルスキー》(1931)と,同名の人物を主人公にした散文《物語》(1929)は,後の《ドクトル・ジバゴ》(1954‐56)の原形をなす。 1930年代の詩集《第二の誕生》(1932)は,一方で未来の空間への展望を歌いながら,同時に社会主義の〈おべっか使いどもの空言〉へのいらだちが語られる。…
※「ドクトルジバゴ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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