イギリスの技術者。蒸気揚水機関の発明者。デボンシャーのダートマス生まれ。鍛冶(かじ)屋および鉄商を営んでいたが、若いときから蒸気機関の製作に熱中した。同郷のセーベリーも同時期に蒸気機関をつくり、蒸気の凝結で密閉容器中に真空をつくった。一方、パパンは1690年の著書で、シリンダーの中でピストンの下に空気ポンプにより真空をつくる提案をした。ニューコメンはこの二つを結び付け、シリンダーの中のピストンの下に蒸気の凝結で真空をつくることを着想した。1705年から試作を開始し、友人でダートマス出身のガラス職人キャリーJohn Calley(1663―1717)の助けを得た。1712年スタッフォードシャーのダッドリー城に初めて実用化した機関を建造した。
ニューコメン機関は大気圧だけで水を吸い上げ、蒸気は真空をつくるためにだけ用いるので大気圧機関ともいう。この機関は揚水用としてとくに鉱山に普及したが、ニューコメン自身は発明から利益を得ようとは考えなかった。彼の死後、1733年に特許は満期となり、ワット機関が出現するまでの60年間以上にわたって普及し、イギリスの石炭産業発達に大きな役割を演じた。ニューコメン機関を改良し、この形式で性能を極限まで高めたのはスミートンであった。
[山崎俊雄]
最初の実用的な蒸気機関(大気圧機関)の発明者。イギリス,デボンシャーのダートマスの生れ。父は商人で非国教徒。わずかな学校教育を受けた後,金物屋もしくは小さな鉄製品を作る小工場を営み,非国教会のバプティストの活動も行う。蒸気機関発明に至る経過については正確なことはほとんど知られていないが,同時代の人々の証言によれば,彼は助手のガラス工とも配管工ともいわれるジョン・コーリJohn Calley (Cawley)とともに,T.セーバリーの水蒸気を用いた排水装置の特許が出された1698年前後に製作を開始していたようである。フランス人のD.パパンがシリンダーとピストンをそなえた装置の着想を提出し,イギリスの雑誌に報告されるのが1697年であり,この着想が彼を刺激したという説もある。確かなことは1712年にニューコメンがコーリとともに,実用的な排水装置を完成させ,バーミンガムに設置したということである。セーバリーの装置が数気圧の高圧蒸気を必要とし,水蒸気を凝縮させるために容器の外から冷水をかけていたのに比べ,ニューコメンの装置は,1気圧よりわずかに高い蒸気圧でよく,冷却水は容器の内側に注入していたために,操作がずっと早くなった。彼の最初のエンジンは直径21インチ,ピストンのストロークは6フィート以上,ポンプ棒や水1.25tの重量を引き上げることができ,1分間に14ストローク(セーバリーは3~4ストローク),約6馬力を出すことができた。のちにシリンダー直径7フィート,ストロークは10フィート,100馬力以上の動力を実現できるまで改良が続いたが,J.ワットの原理的な改良を加えた蒸気機関によって徐々に駆逐された。
→蒸気機関
執筆者:高山 進
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1663~1729
イギリスの排水用蒸気機関の発明者,ワットの先駆者。その機関はシリンダーを冷却器にも使っていたため燃料消費量が大きく,炭坑以外では使いものにならず,約半世紀のちにワットの蒸気機関にとって代わられた。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報
…この機関は直立のシリンダー中に水を入れ,外部から加熱と冷却とを繰り返すものであって,実際的には成功しなかったが,水の沸騰によって生ずる蒸気の力でピストンをもち上げ,次に蒸気を凝縮させピストンを引き下げるしくみのものであった。 以上のような経過をとってきた蒸気機関は,1712年ころ実用化されたT.ニューコメンのいわゆる大気圧機関の発明によって,現在の形式への第一歩をふみだした。この機関はシリンダーと蒸気を発生するボイラーとを分離したもので,図2に示す構造をとっている。…
※「ニューコメン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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