翻訳|Norwegian
ノルウェー王国の公用語であり,約400万人(1977)により使用される。ノルウェー語はゲルマン語派の中の西ノルド語に属し,歴史的に古ノルウェー語(1525年ころまで),近代ノルウェー語(1525年ころ~現在)の二つの時期に大きく区分される。ノルウェー語の最も古い記録は,古ルーン文字による700年ころのエッギャのルーン碑文であり,新ルーン文字による11世紀ころの碑文も多数残されている。ラテン文字による記録では,12世紀後半以降の法律,宗教,歴史などに関する写本が残されており,その中でも特に重要なものは,13世紀中ごろの教訓的内容をもつ《王の鑑(かがみ)》である。
ノルウェー語は,14世紀の中ごろから,スウェーデン語,デンマーク語と同様に,名詞・動詞の屈折体系の崩壊と語順の固定化などの言語的変化を経て,それまで多くの共通性をもっていたアイスランド語と決定的に分離した。1397年からノルウェーはデンマークと連合関係に入り,その結果,デンマーク語が行政・教会などあらゆる公的な領域でノルウェー語に取って代わり,ここにノルウェーにおける文語(=デンマーク語)と口語(=ノルウェー語)との間には大きな断絶が生じることになった。1814年ノルウェーは独立を回復するが,それ以後,ノルウェー独自の国語の確立は次の二つの道をたどった。一つはデンマークとの連合時代以来存在する文語を,発音・語彙に関してノルウェー語化する方法であり,H.イプセンなどの作家が使用した,このいわゆるデンマーク・ノルウェー語はリクスモールriksmålと呼ばれた。他の一つは,ノルウェー語のデンマーク語からの解放を目ざすオーセンIvar Aasen(1813-96)が提唱した,特に西ノルウェーの諸方言を基礎とした文語の創造であり,この文語はランスモールlandsmålと呼ばれた。このようにして,ノルウェーは上述の二つの公用語をもつことになるが,1929年にはこれら二つの文語にそれぞれボクモールbokmål(=〈本のことば〉),ニューノルスクnynorsk(=〈新ノルウェー語〉)の公式名称が与えられた。二つの公用語の統一を目ざした1907,17,38年のボクモールの正書法改正にもかかわらず,二つの文語の間の溝はいまだ埋められておらず,両者の間にはおもに次のような相違が存在する。まず,(1)ボクモールにおける二重母音の単音化とニューノルスクにおける二重母音の保持。例,ボクモールdrømme〈夢を見る〉-ニューノルスクdrøyma。そして,(2)動詞の過去形の相違(ボクモール-et,ニューノルスク-a)である。例,kasta〈投げる〉 ボクモール過去形kastet-ニューノルスク過去形kasta。また,地域的には,ボクモールはノルウェー東部・北部そして大都市(合計話者数約320万),ニューノルスクは西部(同,約80万)に広まっている。
執筆者:斎藤 治之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ノルウェー王国の公用語。インド・ヨーロッパ語族ゲルマン語派ノルド諸言語に属する言語で、隣国のスウェーデン語、デンマーク語とたいへん近い関係にある。
音声体系とアクセントはスウェーデン語に類似している。たとえば、母音の直後にp、t、kが存在し、語頭でg、k、skが口蓋(こうがい)化する。また、なだらかな上昇調のアクセント(スウェーデン語では下降調)と、下降後急に上昇するアクセントの2種類を使い分けている。
ノルウェー国内の言語事情はスウェーデンやデンマークよりも複雑で、現在2種類のノルウェー語が公用語として認められている。1929年以降、公式名称はブークモール(ボークモール)bokmålとニューノシュク(新ノルウェー語)nynorskである。これには歴史的な背景がある。宗教改革ののち、スウェーデンではグスタフ1世(グスタフ・バーサ)、デンマークではクリスティアン3世Christian Ⅲ(1503―1559、在位1534~1559)の時代に聖書が翻訳され、それぞれの国で近代の文語が基礎づけられた。それに対しノルウェーでは、デンマークと同君連合の関係にあったためデンマークの文語が採用され、発音はノルウェー風であっても、語彙(ごい)や文法、正書法の点でデンマーク語に倣うようになった。これがリクスモールriksmålとよばれたもので、後のブークモールである。他方、19世紀の国民意識の高まりを背景に、ノルウェー独自の文語を目ざして、イーバル・オーセンIvar Aasen(1813―1896)は、ノルウェー古来の諸方言をもとにランスモールlandsmålをつくりだした。これは弱音節に完全母音を使い、古い二重母音に戻し、文法では名詞に女性を復活させ、借用語や外来語を排除するなど、非常に古風で純粋主義的であった。ランスモールも1885年に公用語の地位を得た。これが後のニューノシュクである。20世紀になってブークモールの正書法が大幅に改められ、ニューノシュクに近づいた。ブークモールはおもにオスロを含む東部で、ニューノシュクは西部で採用されているが、使用人口からみると、ブークモールのほうが圧倒的に優勢であるといってよい。
[福井信子]
『横山民司著『エクスプレス ノルウェー語』(1987・白水社)』▽『森信嘉著『ノルウェー語文法入門――ブークモール』(1990・大学書林)』▽『岡本健志著『自習 ノルウェー語文法』(1993・大学書林)』▽『アラン・カーカー他編、山下泰文他訳『北欧のことば』(2001・東海大学出版会)』
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