ハクサンチドリ(その他表記)Dactylorhiza aristata(Fisch.)Soó(=Orchis aristata Fisch.)

改訂新版 世界大百科事典 「ハクサンチドリ」の意味・わかりやすい解説

ハクサンチドリ
Dactylorhiza aristata(Fisch.)Soó(=Orchis aristata Fisch.)

高山帯から亜高山帯の湿性のお花畑に多くみられる紅紫色の地生ラン。ハクサンの名は石川県白山にちなむ。先端が掌状に分裂した塊根がある。花茎は高さ10~40cmで,葉を3~6枚つける。葉は倒披針形で長さ7~15cm,上部の葉は小さくなる。6~8月,紅紫色の花を密に十数花つける。花は径1cm強。萼片は開出し,唇弁は暗紅紫色の斑紋があり,3裂して先端はとがる。約15mmのやや太い距がある。本州中部以北の高山帯,北海道の道東や道北では平地湿原草原に生育し,さらにアラスカから日本までの太平洋側,アラスカから朝鮮の日本海側までの東アジアに分布する。

 ハクサンチドリ属は花粉塊の粘着体が小胞という袋に包まれている点で,広義Orchis属(英名orchis)に含まれることもあるが,掌状に分裂した塊根の点で区別される。約30種が,おもにユーラシア,北アフリカから報告されている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハクサンチドリ」の意味・わかりやすい解説

ハクサンチドリ
はくさんちどり / 白山千鳥
[学] Dactylorhiza aristata (Fisch. ex Lindl.) Soó
Orchis aristata Fisch.

ラン科(APG分類:ラン科)の多年草。塊根は肥厚し、先端が掌状に分裂する。花茎は高さ20~30センチメートル、下部に葉を数枚互生する。6~8月、茎頂に径約1センチメートルの紅紫色花を十数個開く。唇弁は約1センチメートルで斑紋(はんもん)が目だち、先端は3裂する。距(きょ)は長さ約1.5センチメートル、やや太い。高山のやや湿った草原に生え、中部地方以北の本州、北海道、および中国東部、アラスカの太平洋沿いに分布する。

 広義のハクサンチドリ属は、花粉塊の下にある粘着体が小胞とよばれる袋に包まれることで特徴づけられる。北半球に約100種あり、日本にはほかに、オノエランニョホウチドリウチョウランなどが分布する。新しい分類では、オノエランはカモメラン属、ニョホウチドリとウチョウランはウチョウラン属となっている。

井上 健 2019年5月21日]


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百科事典マイペディア 「ハクサンチドリ」の意味・わかりやすい解説

ハクサンチドリ

北海道,本州中部以北の高山の湿性草原にはえるラン科の多年草。東北アジアにも分布。茎は高さ10〜40cm,3〜6枚の披針形の葉をつける。初夏,茎頂に紅紫色で,径約1.5cmの花を数個穂状に開く。花被片は広披針形で長さ約1.2cm,先はとがり,唇(しん)弁は3裂し,後方筒形の距(きょ)がある。
→関連項目高山植物

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ハクサンチドリ」の意味・わかりやすい解説

ハクサンチドリ(白山千鳥)
ハクサンチドリ
Orchis aristata

ラン科の多年草。本州中部以北の高山帯の草地に生え,千島からアラスカまで分布する。根の一部は掌形にふくらむが,他は細く横にはう。茎は高さ 10~40cmになり直立する。葉は幅 1cmほどの披針形で数枚互生し,根葉はない。初夏に,紅紫色の花を穂状に十数花つける。包葉はごく細く鋭くとがり,濃い紅紫色で長さは花とほぼ等しい。外花被は細くとがり,長さ 1cmぐらい,内花被は卵形で萼より短い。長さ 1cmあまりの距がある。

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世界大百科事典(旧版)内のハクサンチドリの言及

【オルキス】より

…花は穂状あるいは総状の花序に多数つき,多くはピンク~紅色で美しく,欧米では観賞用に栽植されるが,肥えた土で水はけのよい条件が必要で,日本では露地ではうまく育たない。広義のオルキス属は日本のハクサンチドリウチョウランなども含み,後者やヒナチドリは花形や花色に変異が多く,山草愛好家に栽培されるが,乱採されるため多くの生育地が破壊された。 オルキス属は地中に球状に肥大した根をもち,春その根から発芽し,茎を地上に直立させ,線状の葉を出す。…

※「ハクサンチドリ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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