日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハマダラカ」の意味・わかりやすい解説
ハマダラカ
はまだらか / 翅斑蚊
anopheline mosquito
昆虫綱双翅(そうし)目糸角(しかく)亜目カ科に属するハマダラカ属Anophelesのカの総称。はねに斑紋(はんもん)をもつのでこの名があり、属名を読んでアノフェレスともいう。マラリアを媒介するカを含む。小楯板(しょうじゅんばん)の後縁は半円月状、腹部には鱗片(りんぺん)をほとんど欠き、静止時に多くは尾端をあげて斜めに逆立ちした姿勢をとる。雌の小顎肢(しょうがくし)は口吻(こうふん)とほぼ同長。幼虫は呼吸管をもたず、水面に平行に位置して気管呼吸をする。卵は1対の浮嚢(ふのう)をもち、水面にばらばらに産卵される。5属300種以上知られている。このうち、日本にはハマダラカ亜属のシナハマダラカA. (Anopheles) sinensisなど9種と、タテンハマダラカ亜属のコガタハマダラカA. (Cellia) minimusなど2種を産する。シナハマダラカが日本でもっとも普通のハマダラカであり、小顎肢に4個の白輪をもち、腹部第7節の腹面に黒色鱗片群をもつ。成虫で越冬し、早春より出現し、大形の哺乳(ほにゅう)類、とくにウシやヒトなどから吸血する。幼虫は、水田、湿原、池沼、排水溝、水槽などに発生する。三日熱マラリアを媒介する。北海道から琉球(りゅうきゅう)諸島、中国、東南アジアに分布する。コガタハマダラカははねに4個以上の黒色斑点部をもつ小形のハマダラカで、脚(あし)に黄白色の斑点を欠く。東南アジアでは重要なマラリアを媒介するカで、熱帯熱マラリア、三日熱マラリア、四日熱マラリアを媒介する。八重山(やえやま)列島、宮古(みやこ)列島でのかつてのマラリア流行では本種が媒介の役を演じた。幼虫は渓流のよどみ、流水槽に発生し、成虫は土手の草むらに休息し、夜間家屋に侵入してヒトを吸血する。琉球諸島、東南アジア、ニューギニア島に分布する。
[倉橋 弘]