翻訳|baobab
バオバブの名はスワヒリ語名に由来し、バオバブ属Adansonia植物の総称として用いられる場合もあるが、普通は熱帯アフリカ原産のディギタータ種A. digitata L.をさす。ディギタータ種は幹の太い独特な樹形の落葉高木で、その姿は逆さまに植えられたニンジンと形容される。樹高18メートル、幹の直径9メートルに達し、樹齢2000年と推定される巨木も知られている。葉は掌状複葉で、枝の先端につき、小葉は5~7枚あり、長さ約12センチメートル。花柄は長く、下垂し、径15センチメートルの白色の5弁花をつける。雄しべは多数あり、基部が筒状に癒合し、パフ状となる。果実は長径10~40センチメートルの楕円(だえん)形で、細毛の密生した堅い外果皮で覆われ、内部にはパルプ状の果肉で包まれた径1センチメートルほどの種子が多数ある。原産地では、酸味のある果肉が清涼飲料水に用いられるほか、若葉は食用、種子は食用・薬用、樹皮は繊維料として利用されている。
バオバブ属には、本種のほかマダガスカルに6種、オーストラリアに2種が知られている。マダガスカル産のA. za H. Bn.やA. fony H. Bn.およびA. grandidieriのみごとなとっくり形の樹形は、本属のなかでもとりわけ特異なものである。
[吉田 彰]
アフリカの先住民はバオバブを保護下に置き、多目的に利用する。堅い果実は容器に使う。種子の周りのパルプ質は酒石酸などを含み、甘酸っぱく、そのまま食べたり、水に溶かして清涼飲料をつくる。ビタミンCも多い。また、ゴムの凝固剤にも使われ、牧畜民は牛乳に混ぜて凝固させ、食用にし、燃やしてアブなどの害虫からウシを守った。高熱時の発汗剤として熱冷ましに利用した。種子は砕いて炊き、粥(かゆ)にしたり、ミレットと混ぜてミールにした。オーストラリアの先住民もアダンソニア・グレゴリーA. gregorii F. v. Muellを生食あるいは炒(い)って食用にした。種子は油脂に富み、それからバオバブオイルがとれる。黄色い不乾性油で、風味があり、せっけんの原料にもされた。若い葉はシチューを濃くするのに用いられる。アフリカやマダガスカルではロープや馬の腹当、民族楽器の弦に使われ、カメルーンでは皮なめしのタンニン剤として利用された。アフリカでは古い樹洞を食料の貯蔵庫や死体をミイラにするのに利用した。オーストラリアでは先住民が乾期にスポンジ状の木部をかじり、水分を得た。現在東アフリカでは、移動を制限された保護域内のアフリカゾウが、乾期に牙(きば)で幹を傷つけ、水分の供給源にしている。
[湯浅浩史]
アフリカの乾燥したサバンナ林地帯に分布するキワタ科の高木で,その特異な樹形とさまざまな有用性で知られる。高さ十数m,直径が10mにも達する円筒形の幹をもち,その先に密に枝を茂らせるので,乾期に落葉している状態はよく〈巨人が幹をつかんで根を地中から引き抜き,さかさまに置きかえたようだ〉と形容される。根は50m四方に張る。老樹は幹の中が空洞になって年輪を数えられないために,樹齢の推定は困難だが,数百年は生きるものと思われる。樹皮は灰色で平滑。葉は3~9(ふつうは5)枚の小葉をもつ掌状複葉で,小葉は長さ9~16cm,幅4~6cmの長楕円形。葉柄は10~20cm。花は大型,白色で,葉腋(ようえき)に単生し,60~100cmの花梗をもって下垂し,みつを吸いにくるコウモリが花粉を媒介する。果実は長さ25~45cmの長楕円形,木質で,サルが食べるので英名をmonkey breadという。パルプ質の果肉に包まれて多数の大型の種子がある。果肉は酸味を有し,食用,飲料用とする。種子も食べられるが,油をとったり,数珠つなぎにして土器の表面をみがくのにも用いられる。若葉は多量のミネラルを含み,穀粉を練った主食につける汁の実として重要である。植物体の各部が種々な民間薬として利用される。樹皮の繊維はじょうぶで,縄や布をつくる。材はきわめて軽軟で,大木の幹に穴をうがって水や他の物質の貯蔵場所とし,また仮の住居とする。
バオバブ属Adansoniaは約10種からなり,アフリカ,マダガスカル,オーストラリア北部などに分布する。
執筆者:緒方 健+川田 順造
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