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バリバール ばりばーるÉtienne Balibar

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

バリバール
ばりばーる
tienne Balibar
(1942― )

フランスの哲学者。1994~2002年パリ第十大学教授。エコール・ノルマル・シュペリュール(高等師範学校)在学中の1965年、23歳の若さで師のアルチュセールらと『資本論を読む』Lire le capitalを刊行し、構造主義的マルクス主義の旗手として一躍脚光を浴びる。1970年代には、在学中に入党したフランス共産党の理論家として『史的唯物論研究』Cinq tudes du matrialisme historique(1974)、『プロレタリア独裁とは何か』Sur la dictature du proltariat(1976)などの著作を発表する。構造主義の流行が去り、マルクス主義・共産党の求心力が低下するにつれて(バリバール自身は1981年に党の移民政策を批判して除名処分を受ける)顧みられることが少なくなったが、1980年代後半以降、I・ウォーラーステインとの共著『人種・国民・階級』Race, nation, classe(1988)などで再び注目を集めるようになる。19世紀に成立した「国民社会国家tat national-social」(国民国家tat-nationと社会国家tat-socialすなわち福祉国家とを結びつけた造語)が市民革命によって生まれた市民に社会的・政治的権利と交換に国民としての地位を受け入れさせ、市民権は国籍保持者としての諸個人によって行使される国家的市民権となったとする『人種・国民・階級』での議論は大きな反響をよぶ。以来、フランスを代表する政治哲学者の一人として、ホッブズやスピノザなどの古典の読解からナショナリズムや人種主義の分析までの幅広い領域で研究活動を展開する。その後はヨーロッパで顕在化している移民に対する暴力の問題を取り上げ、グローバリゼーションの進行により国家主権の形骸(けいがい)化や国内における失業者の増加といった困難に直面した国民社会国家が移民をスケープゴートに選び、失われた統合性を回復するためにその排除を遂行していることを指摘、状況の改善に向けた実践的な介入を試みるとともに、排除原理としての国家的市民権とは区別される「国家横断的市民権」を構築するための方途を模索している。そのほかのおもな著作として、『スピノザと政治』Spinoza et la politique(1985)、『民主主義のフロンティア』Les frontires de la dmocratie(1992)、『大衆の恐れ』La crainte des masses(1997)、『市民権の哲学』Droit de cit(1998)などがある。[澤里岳史]
『今村仁司訳『史的唯物論研究』(1979・新評論) ▽若森章照他訳『人種・国民・階級――揺らぐアイデンティティ』(1995/新装版・1997・大村書店/2014・唯学書房) ▽今村仁司訳『資本論を読む』上中下(ちくま学芸文庫) ▽Spinoza et la politique(1985, Presses universitaires de France, Paris) ▽Les frontires de la dmocratie(1992, La Dcouverte, Paris) ▽La crainte des masses : politique et philosophie avant et aprs Marx(1997, Galile, Paris) ▽Droit de cit; culture et politique en dmocratie(1998, Aube, La Tour d'Aigues) ▽ピエール・ブルデュー著、稲賀繁美訳『話すということ』(1993・藤原書店) ▽エルネスト・ルナン、ヨハン・ゴットリーブ・フィヒテ他著、大西雅一郎他訳『国民とは何か』(1997・インスクリプト) ▽フランソワ・ドッス著、清水正・佐山一・仲澤紀雄訳『構造主義の歴史』上下(1999・国文社)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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