バンキムチャンドラ(その他表記)Baṅkimcandra Caṭṭopādhyāy

改訂新版 世界大百科事典 「バンキムチャンドラ」の意味・わかりやすい解説

バンキムチャンドラ
Baṅkimcandra Caṭṭopādhyāy
生没年:1838-94

インドのベンガル語近代散文を確立した小説家思想家。西ベンガル州24パルガナス県生れ。幼少のころよりサンスクリット英語の教養を身につけ,イッショルチョンドロ・グプトなど前世代の詩人影響下にベンガル語の散文,詩を書き始める。1858年,カルカッタ大学初の文学士試験に最優秀の成績で合格。この年から晩年までイギリス植民地政府の官吏としてベンガル各地の副収税官,副治安判事を歴任,高潔な人格とすぐれた行政手腕によって名声が高かった。この間の体験は彼のインドの社会や歴史に対する深い洞察力を養うのに役立った。彼の事実上の処女作,歴史小説《ドゥルゲシュノンディニDurgeśnandinī(城主の娘)》(1865)は,ベンガル近代小説の黄金時代の幕あけを告げた。1872年,総合雑誌《ボンゴドルションBaṅgadarśan》を創刊,広い分野のベンガル知識人に創作の場を与えるとともに,みずからも長編小説や評論,随筆に腕をふるった。この雑誌が若きタゴールをはじめとするベンガル知識人におよぼした影響ははかり知れない。この時期の作品群,小説《毒の樹》(1873),《クリシュノカントの遺書》(1878),痛烈な社会風刺にみちた随筆集《コムラカントの手記》(1875),社会・歴史・文化論を収めた《雑評論集》(1876),西欧科学の啓蒙を目的とした《科学の秘密》(1878)などは,ベンガル語近代散文の一つの頂点を形づくった。

 思想的にはベンサム,ミルの功利主義,コントの実証主義など,近代西欧の思潮に強い影響を受けたが,晩年になるにしたがってヒンドゥー教への傾斜を深め,ヒンドゥー教を基底にすえた愛国主義の色彩を鮮明にする。小説《アノンドの僧院》(1884)に含まれた愛国歌《母を讃えるバンデー・マータラムBande Mātaram》はインド独立運動の際の愛唱歌として名高い。宗教論《クリシュナ神の性格》(1886),《宗教真理》(1888)などは晩年の力作である。英語の著作も多い。
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百科事典マイペディア 「バンキムチャンドラ」の意味・わかりやすい解説

バンキムチャンドラ

インドの小説家,思想家。初めは英語で小説を書いていたが,のちベンガル語を使用。〈ベンガル文学の父〉とされ,タゴールらに影響を与えた。愛国的な歴史小説を数多く発表した。《アノンドの僧院》の中の愛国歌《バンデー・マータラム》はインド独立運動時の愛唱歌。

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世界大百科事典(旧版)内のバンキムチャンドラの言及

【インド文学】より

… ベンガル近代文学は,英語による近代教育の普及を背景に育った知識人たちによって,〈ベンガル・ルネサンス〉と呼ばれるベンガル文化全般にわたる近代化の動きの中で形成された。その最初の大きな収穫は,1850‐60年にかけて小説家のバンキムチャンドラ,詩人のダット,劇作家のディンボンドゥ・ミトロ(ディーナバンドゥ)らによってもたらされた。ことにバンキムチャンドラはベンガル近代散文の確立者として批評・随筆の領域にも幅広い功績を残した。…

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